彼はいつも一人だった。
だった、という過去形じゃなくて、です、といったほうが正しいけれど。
「折原さん!」
全身黒ずくめな服を着て、夏な癖にファー付きのジャケット…暑くないのかな?と思う。
しかしこれが彼のスタイルなのだろう。
私はこれ以外の彼の姿を見たことはない。
「なんだ、君か」
そういって折原さんは笑顔を見せる。
あぁ、綺麗な笑顔だなぁ(褒め言葉)と心の中で思うが、その奥では笑ってないことを感じとり、ぞっとする。
私は怯えを見せないように、ポーカーフェイスという名の笑顔を振り撒く。
「君か、とはどういうことですか、折原さん…。で、その格好暑くないんですか?」
聞いて、しまった。
黒い洋服は日光を吸い取ったような…昔やった理科の実験でやった気がする。
あとこの真っ黒な服は色々な意味で平和島さんに見つけてくれ、と訴えているようにも見える。
でも折原さんは化け物(平和島さん)が嫌いだからそれはないか。
平和島さんも平和島さんで目立つバーテン服着てるし。
互いが互いに目立ちすぎだと思う。
そんなことを考えていたら、いつの間にか折原さんの返答は始まっていて、延々とくだらないことを私に語っている。
私に語ってどうしたいんだろうこの人は。
長々とした話は嫌いだ。
「折原さん少し黙ってください。頭、いたいんです」
頭の痛さは多分この暑さのせい、そう思いながら彼をじっと見ていた。
「なんだい、そんなに俺の顔見て、面白いかい?」
「うざ」
やはり暑さは人をおかしくするらしい。
いつも言わない言葉がすらすらと流れていき、黒い服に染みていくようだった。
「君がここまではく子だとは思わなかったよ」
折原さんは、はぁ、とため息をつく。
それにこの町の人口密度が高いのも問題あると思う。
「名前ちゃん、町に文句いっても意味ないよ」
「私、喋ってましたか?」
いや、顔に出てたから、と美麗な顔を歪めて(笑って、ともいう)、私に言った。
暑い、暑い、倒れそう。
なんだ、この暑さ。馬鹿じゃないの。しねよほんとあついんだよ。
目の前にはアイスクリームを持っていちゃつくカップル。
…アイスクリーム零れればいいのに、と最低なことを考える。
「何、君アイスクリーム食べたいの?」
折原さんは突拍子もないことをいうが、私は何故か頷いていた。
折原さんがアイスクリームを買っている姿を後ろから見る。
折原さんの周りは人、一人が通れるスペースなるものが出来ていた。
人はわかっているんだろうか、本能で…。彼は危険な存在だってことを。
危険な存在といったら平和島さんも一緒だが、あの人はドレッドヘアの先輩と結構一緒にいる。
ということは折原さんは本当に一人なんだ。
買ってきたよ、と伝えられ私の手元にはソフトクリームが持たされた。
ぺろり、と舐め、先程考えていたことを折原さんに伝える。
「折原さん、その黒い洋服の目印は気付いてもらいたいから着てるんですよね?」
答は聞かない。
一気にまくし立てる。
「折原さん一人は嫌なんですよね。だから人のことを愛していて、係わり合いたくて…」
手が溶けたアイスクリームでべたつく。
それをぺろり、と舐めて、言葉を続ける。
「だから、情報を持ってる。そして気付かないうちに助けてくれてる。優しい、人なんですよね。折原さんは」
下を向いているため、顔が見えない。
私は顔をあげ、折原さん、と呟いた。
彼は私をじっ、と見つめていた。
そしていつものように歪んだ笑みを見せた。
でも、今の私には泣いているようにしか見えなかった。
寂しいのは、誰?
110821
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