前の大将は自分の腹を俺で裂こうとした。しかし裂けなかった。いや、裂けさせなかったが正しいだろう。この刀は大将を刺すものではない。守るものだ。だから、今でも同じ刀として守りたい。
「大将、どうかしたのか」
今の大将は審神者として活動しているらしい。審神者というものは俺たちに宿った付喪神を具現化指せることができる、と死にそうな顔をした大将が言ったことを憶えている。
「あぁ、薬研か。桜が綺麗だと思って」
ひらひらと舞う桜はゆっくりと本丸に流れる川へと落ちてゆく。これ以上落ちたら桜の川になるのかだなんて薬研は考えた。
「そうだなぁ、雅な事はわからんが桜は綺麗だ」
「薬研の黒髪に桜は映えるね。綺麗だよ」
いつの間にかついていたのか大将は俺の髪に触れて桜を取って、ふうっと息を吹きかけ飛ばした。桜はそこからひらりと舞って地面へ落ちた。
地面に落ちた桜は踏まれ、汚くなり、枯れて、土に塗れてしまうだろう。今は綺麗な桃色だがいつかは茶色となり粉々になりよくわからなくなる。
「なあ、大将。俺っちがいなくなっても治そうと思わないでくれや。俺は大将を傷つける事がなけりゃなんでもいいから。刀らしく終わらせてくれ」
ひらりと桜がまた薬研の髪の毛へと落ちた。
150223