BF(仮)の逢坂くん
ぱらぱらと降っている雨に対して私は傘立ての前でため息をついた。梅雨の時期だから傘を持ってくるのが当然なのだが、その当然持ってきた傘を誰かが取ってしまったようだ。確かにビニール傘という誰にでもありえるような傘を持ってきた私が悪いのだが……。
「名前、書いてあったのになあ」
取っていったような人はなんとなくではあるが検討はつくが攻める気はさらさらない。むしろめんどくさい。
「どうしたんだい、傘立ての前でため息なんてついて」
「いつから逢坂くん見てたの……?」
「君のことはなんでも知ってるからね、傘でも取られたんだろう?」
「間違ってはないけど………」
間違ってはないけれど、なんでも知ってるから、と答えられるとなんとなく怖いモノがある。カメラでも仕掛けられてるのかなとでも思ってしまう。
「何も仕掛けてないよ?」
「!?」
「それはまあいいけれど、どうやって帰るか考えているのかい?」
「小雨になったら帰ろうかなあって……」
何事もなかったかのように話題を変えられた。確かに話していていいものではないから、構わないけれど。
「それだとずっと学校にいるようなものだよ、そうだ、ぼくの傘に一緒に入らないかい?ぼくの今書いている小説にヒロインと相合傘するシーンがあるんだ。そのヒロインの反応が知りたいんだ」
無理矢理にでも相合傘をして欲しいのか、退路をなくしていく。逢坂くんは少し私に近付いて、傘立てに入っている無骨な傘を取り出した。
「ほら、これなら君も濡れないからさ」
にっこり笑いながら逢坂くんは外で傘を開いた。
「早く帰ろう、そうじゃないと君の夕飯の時間に間に合わないよ」
空を見上げるとまだ暗雲が立ち込めていて、止む気配はない。彼の言う通りに夕飯の時間に間に合わないのもわかる。いそいそと彼の開いた傘に近付いた。彼の体温が近い。ぼたぼたと傘から聞こえる雨の音を聞きながら彼にひとつ聞いてみた。
「ねぇ、逢坂くん」
「なに?」
「なんで私の夕飯の時間知ってるの?」
「君のことはなんでも知ってるからね、わかるよ」
少し赤い顔ではにかむ彼になんとなく怖い気がしたのは気のせいだと思いたい。
140704