もじ | ナノ
私の幼馴染はおもいっきり私のことを嫌悪している、と生島とかにそういわれた。そうなのか、と思い出すが私には少しとしても思い出される節はない。気にはされているとは思う。それがどういう意味なのかは私にはわからないが、声をかけなくてもくるりと振り向く彼はどこか怯えているようだったか…?私生島やヤナギンにいわれ思い出す。しかし彼は昔の私を思い出して怯えているのではないか、とごく稀に感じることがある。今の私は、生島やヤナギンなどに囲まれて恐ろしく普通の女子高校生として生活を送っている。それは学校の友人が証明してくれるであろう。

「としゆきは私を嫌っている?」

そんな呟きは虚空に消えていく。嫌っているのならば、無視してしまえばいい。なのになんでとしゆきは私を無視せずに振り返ったりするんだろうか。難しいし、よくわからない。わからないことは考えなくても問題ないのだろうか。私は簡単に思考をやめ、目の前にあった可愛らしいクッションをぎゅと顔に押し付けた。
 日々何も変わらずにすごし、生島やヤナギンと面白おかしい会話をしながら、家に集まる。それが変わらない。変わらないからこそとても楽しいのだろうけれど。「あ、としゆきじゃん!」

ヤナギンが帽子+制服の姿を見て、声を張り上げる。声大きいよ、と内心思いつつもこちらにだんだん近づいてくるとしゆきに少しだけ動揺が隠せなかった。以前ふと湧き上がった疑問が彼を見るたびに少しずつ少しずつ増加していく。ああ、なんだろう、すごく……怖い。何が怖いとか詳しいことはわからないけれど、なんだか怖い。

「あぁ、何をやっている」
「なーんもやってない、というかとしゆきも何してんのさ」

にこにこと笑みを浮かべながら話を続けていく友人達を見て少し悔しい、と思った。彼は私の目を見て話すけれど、彼女達と話す彼はどことなく嬉しそうで、私は友達との差を思い知った。

「ごめん、私先に帰るね?」

私は未だ話し続ける彼らにそう言い放って、自宅への道を駆けていった。……少し、落ち着こう。考えを少しでもまとめようと思い、近所の公園へと足を滑らせた。その公園はどことなく懐かしい気がして、公園の名を見るとあぁと理解した。
 ここは、私という化け物が退治された場所じゃないか。以前は、所謂某青いロボットが出てくるような空き地であったが、いまや綺麗に整備されたようで、遊具などが多く存在していた。すごく、変化したんだなぁ、と遊具できゃっきゃと遊んでいる小学生か幼稚園くらいの子をぼうと眺めていた。いくつ時間がたったのだろうか。眺めていた場所にはもう誰もおらず、真上にある街灯は私を照らしている。何もしていなかったはずなのになぁ、と1人ごちて先ほどまで座っていたベンチからおりて、ベンチ近くにあるブランコに歩みを進めた。
きぃ、きぃと少し嫌な金属音を立てながらも私はゆっくりと地面を蹴り始めた。小さい頃はアークデーモンと怖がられていた私だったが、高いところは好きだった。馬鹿と何かは高いところがすき、という言葉もあながち間違いでもないかもしれない。

「家、帰らなきゃなあ…お母さん心配してるだろうし。」

でも、私はまだブランコをこいでいたかった。地面を勢いよく蹴って、風を顔に浴びる。少し寒いが、これくらいがちょうどいい。頭を冷やすのはこれくらいで十分だ。

「羽原!」

 声が聞こえた。少しだけ低い私の知っている声。あのときより声が低くなったんだなあと感じたあの声が聞こえる。でもあの声の主は私のことを嫌っているはずなので私の幻聴。最悪だなあ、考えないようにって思っていたのに声聴くだけでもアウトだなんて最悪じゃない。考えたくない、考えたくないと思いながら私はこいでいたブランコからぴょんと地面に飛び降りた。ブランコの近くにある柵を乗り越えて地面に飛び立てるか少し不安だったけれど、出来た。よかった。

「羽原!っうえ」

また声が聞こえる。気のせいだと自らに言い聞かせ、私はブランコにのる前に座っていたベンチのほうへ向かう。鞄置きっぱなしだったし…誰かに財布とか取られていなければいいけど。まぁほぼ目の前にあったようなものだから、問題はないけれど。まだ頭冷やし足りなかったかもしれないと思いつつ自分の鞄を取り、家へと向かう。

「見つけた。どこ行ってた。」

鞄を持っていない逆のほうの手を引っ張られた。誰が引っ張っているかなんて、声を聞けばすぐわかる。

「とし、ゆき?」
「それ以外に何がある。」

帽子を被っていて、制服ではなく少し軽めの洋服を着て、はぁと少し息を乱しているとしゆきがいた。何故いるの?なんてそんなことは聞けない。ぎゅっと強く握られる手首が少し痛い。そして、なんだか彼も脂汗をだらだらと垂らしている。

「としゆき、逃げないからさ、手はなしてくれないかな。」
「ああ、…すまない 少し待っていてくれ。」

そういって彼はベンチの裏にある茂みに行き、嘔吐した。おそらく我慢していたのだろう。迷惑なことしたなあ。

「としゆき。きついなら先私帰るよ?」
「いや、待ってろ。お前の母親に頼まれたんだ。娘が帰ってこない。見ていないかとな」

ああ、だからか。お母さんもひどいことをする。としゆきが私のことを嫌いだって知っているのにもかかわらず頼むなんて、失礼にもほどがあるじゃないか。

「お母さんが…迷惑かけてごめんね。」
「いや、行きたくなかったら断わっている。最近はモトハルにNOと言えるようになれといわれたからな。」
「なんでNOなのよ、断わりますとでも言えばいいじゃない。」

あぁ、と彼は呟いて茂みから出てくる。少しすっぱい匂いが漂ってくるのはまぁいつも通りだ。極度のことがあると、そうなる。

「水でもいる?」
「NOといいたいところだが、欲しい。」
「じゃああげる。これ全部飲んでいいよ。」

学校の昼休みのときに水を買っておいてよかった、と私は鞄の中からペットボトルを取り出し彼に手渡した。彼はその一連の動作を見て少し固まっていたように見えたがおそらく気のせいだろう。表情をあまり見せない彼が間接キスくらいなんかで、固まるはずはないのだ。

「どうしたの、としゆき?」
「なんでもない。とりあえず礼をいっておこう。」
「いやそれ私が言う台詞だから。ごめんね。こんなとこまで…」
「だから自分から行くと言い出したんだ。謝るな。」

いつものように彼は私の目を見ている。でも、そのいつもより今日の視線はそれほど嫌なものではなく、少し安堵した。あぁ、としゆきは私のことを嫌悪しているとしてもそこまで嫌悪してないんじゃないかな、なんて自分にとって都合のいいことを考えてしまう。そんなことあるはずないのに。いつものように

帽子を深く被っているために表情はあまり見えない。でも、そこに隠しておきたいものを付けたのは私自身の責任だ。
 としゆきは、いつまでたってもやさしかった。そのやさしさが私にとって苦しめている一因となっているのにも関わらず、少し嬉しい。なんてひどい言い方だろうか。ごめんね、と思う。私のせいで、とも思う。あの頃の私は傷をつけ、子供を痛めつけて、なんてひどいことをしていたんだろう。いや、そのときは私もおかしかったのだろう。でも、そのことを今謝ったとしてもとしゆきの額にある傷は治らない。お母さんは謝りにいきなさい、とはいっていたけど私が謝ったという記憶は一つとしてない。

「ほら、帰るぞ。」
「あ、うん。」

考え事をしていて気づかなかった。としゆきは既にペットボトルを空にしていて、それを握って潰している。

「それ、私のだから持ち帰るよ。かして。」
「いや、もらったものだからな。俺が処分する。」

そのまま、ペットボトルを握りながら私たちは家へ帰っていく。家が近くていいことなんてない。迷惑はかけちゃうし、その人のことを逐一気にしてしまう。もう、イヤだな。なんでこんな風にとしゆきのことを思ってしまったのだろうか。嫌悪されていても、幼馴染としては変わらないはずなのに。

「そういえば、今日いきなり立ち去ったがどうしたんだ?」
「へ?」
「ほら、柳とかと話していたときのことだ。」
「ああ、……あんまり意味はないかな。」
「本当か。」
「うん。」

意味は無いけれど、自分の考えがわからない。何がしたかったのか。何もしたくなかったのか。とりあえず明日生島たちに謝っておこうかな、と思う。あまり気にしてないかもしれないけれど、謝れるうちに謝っておくべきだ。

「ねぇ、としゆき。」
「なんだ?」
「色々とごめんね。」

私はあまり素直じゃない。ひっくるめて謝ってしまった。でもとしゆきには丸解りだろう。

「いや、もういい。過ぎたことだ。」
「そっか。うん。じゃあ今日はありがとう。」

にこり、と笑顔を浮かべとしゆきに礼をいうと、またいつものようにされてしまった。……やっぱり嫌われているのかなあ。

「じゃあね、また明日」
「ああ、またな」

家の前で、挨拶を交わし家へ入る。どうせお母さんからの説教が待っているだろうけれど、今日の私は少しすっきりしている。このよくわからない気持ちが少しもやもやとしているけれど、そこまで嫌悪されている訳ではないとわかったので私は口元を緩めたのだった。


なんともいえない



120324
某ぴくし●に掲載した作品です。
続くかもしれません。(誰得)


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