※廉→柔
柔造に許婚がいた話
離れるのは多少なりともわかっていたんや。でも、そないに早くなくともええんやないか…?
柔兄に許婚がいる、と知ったのはお父と柔兄が話しているのをこっそり聞いていたからやった。志摩家の後継ぎとして、しゃあない気もした。やけど、なんかむしゃくしゃして、金兄に八つ当たりしたら返された。
「どうしたんや廉造?」
「柔、兄…、なんもないで」
我慢や、俺は嘘が得意やろ。建前も得意やけど笑顔や。疑われるのは大変やし、笑顔。
「なんもなくないって顔してへんで」
「なんもないんや」
柔兄と話していたら俺のこのむしゃくしゃしていた気持ちがすぅっと無くなっていった。どういうことなんやろか。俺にはまだわからへん。
「廉造、我慢すんなや」
ずい、と顔を近付けてくる柔兄と目が合う。ただただ心配しているようやった。そないに心配かけると、柔兄に迷惑がかかる。
「大丈夫や、気にせんで」
「嘘や」
ぐい、と引っ張られ、俺の顔が柔兄の胸元へと当たる。昔も同じことをされた。
「ったく、金造は廉造虐めんなや、兄貴やろ?」
「廉造うざいんやもん」
「金造!」
金兄にいつもいつも虐められていた俺はいつも柔兄に引っ付いていた。最近はそないなことなくなったけど。そして俺の顔を彼の胸元に引き寄せ、背中にぽんと手をおき、撫でるんや。慰めてるつもりなんやと思う。
そして、今も背中を撫でている。
互いに大きくなった中でも、何一つ変わっていない行動と、少し変わってしまった気持ち。
でも、まだこのままでいたかった。
111106
廉造くんはお兄ちゃんっ子だと思う。(柔兄のみ)
金造は喧嘩するほど仲がいい、みたいな。