もじ | ナノ
※東西がお医者様だったら そのに







俺の兄さんは…俺の憧れだった。だから俺はその兄の背をいつも見ていた。
「兄さん、兄さん」
「なんだ、ルッツ?」
こんな関係がいつまでも続いていてほしかった。
しかし、そんな平穏はいつまでも続かなかった…。
兄さんが、某有名な医学部に入ってしまったからだ。
もちろん俺はそんなこと知らない。
その話が俺の元に届いたのは俺の兄が一部で有名な天才医者になった、という風の噂で聞いたときだった。そんなことは信じたくなかった。
でも、噂で聞く容姿が俺の兄そっくりなのだ。
病院へ覗きに行こうかと思った。けど、やめた。
自分もそこに向かおうと思ったのだ。
真正面から兄に立ち向かうと決めた。

それから何年かがたった。

俺は兄のいる病院に勤めることが決まった。
やはり、俺の兄は一目置かれていた存在だった。
「お、ヴェストじゃねぇか!お前も来たのか、よろしくな」
それが俺に対しての一言だった。まるで俺が来るのを知っていたかのような口ぶり。
”俺は兄さんを追ってきたんだ”なんていえなかった。
数ヶ月たって、俺の技術が認められるようになった。
でも”あの兄の弟だから”といって当然だという扱いをうけた。
俺は”俺”なのに。兄と比べないでほしかった。
そんなことは無駄なのは知っているからこそ、言わなかった。
どうせ、何処へ行っても”兄”と比べられるのだから。
そんなことはわかっていた。
昼休憩の時間になる。
俺はいつも通りに屋上へ向かった。
「よお、ヴェスト。今暇か?」
階段を昇っていく途中で兄にあった。"兄"は"兄"のままで何処も変わっていなかった。
ふと、したときにいる。
「暇といえば暇、だが。なんだ?用か兄さん」
「いや、別になんもねぇけどよ」
そういう遠まわしの性格は変わっていないらしい。
「……俺の…助手になってくんねーか?」
兄はポツリといった。
俺は一瞬ふざけているのかと思った。
「……考え…させてくれ…」
「そうか、決まり次第連絡してこいよ!」
そういって兄は階段を降りていった。…ドタン、という音は聞かなかったことにしておこう。

俺は決断した。
「兄さん、あとでリネン室にきてくれないか?」
「ん?ああ、わかった」
兄は俺の表情でわかった気がした。
「どうしたんだよ、ヴェスト。返事なのか?」
兄は俺を覗き込むような姿勢をした。
その顔がなんだか俺を見透かしているような気がして気持ち悪く、右手で彼の頬を叩いてしまった。
パチン、と乾いた音が部屋に響いた。
兄は唖然としたような顔で俺を見た。
駄目だった。”いいこ”で貫いていた自分が壊れる気がした。
「…だから…兄さんは…」
「ん?なんだ?」
「だから兄さんは…きらいなんだ。俺のことを考えてくれないし、…誰も認めてくれない…」
兄は黙って俺の独り言を聞いていた。
そして、呟いた。
「俺は、お前のことを認めているからこそ助手を頼んだんだよ。なくなよ、笑え、笑えって」
「…兄さんは…ずるい…」
泣いていることはわかっていた。
でも慰められるとはわかっていなかった。
「…ん、とりあえずこれで拭け。返事は落ち着いたらでいい」
差し出されたのはしわくちゃになったハンカチだった。
やっぱり兄さんらしかった。
キイッと扉を開けた。
日の光がまぶしかった。
それは、いつの日か見た光と同じようだった。

「よろしく頼む」と、俺は答えた。




100315
某呟きでガタッとなったので。
とりあえず兄に認知させたかったるーとくん

スランプ中でした^q^


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