もじ | ナノ
唄っていた。
俺の声が届かない、静かな、部屋で。

Jeremias

唄ったのは唐突。何を唄ったかも知らない。
だが、何かに嘆いているような、そんな唄だった。
「ギルベルト、何を唄ってるんだ?」
幼い頃の俺はその唄をいつも唄っているギルベルトに問うたことがある。
彼は幼い頃の俺の顔をまじまじと見つめ"大人になったら教えてやるよ。ヴェスト"
といけ好かない返事をしながらも唄っていた。
まだ、幼い頃の俺はわかっていなかった。理解してなかった。
ギルベルトにいっつも世話になっていたから、困らせることはしたくなかった。
それから長い長い月日がたった。
"プロイセン"という国はなくなり、代わりに"ドイツ"という国が出来た。
俺は、文明、文化…などで兄さんのことをかまう時間すらなかった。
「忙しそうだな?ヴェスト…」
俺は兄さんと呟き、仕事に没頭していく。
兄さんは幼い頃からずっとずっと唄っていたあの唄を歌いだす。
最近はめったに唄わない。もう、古い曲。
「兄さん、その唄」
俺は昔のことを思い出す。
「ヴェスト…この唄は」
そういって兄さんはポロポロと涙を流し始める。
何故、泣くのだろう。よく理解できない。
あぁ、俺は幼い頃と全く変わっていない。
「つらいのなら言わなくていいぞ。兄さん」
俺はこんな言葉しかかけられない。
どうすればいいのだろうか。
「いや、平気だ。確か、昔約束したもんな」
兄さんは少し淡い笑みと涙を多少流しながら語った。
「この唄はJeremias。勝手に俺が作り出した誰も知らない唄だ。まぁ、結構昔の唄の音程を借りたけどな」
そう兄さんは笑いながらこっちを見た。
「これで幼い頃のお前の疑問はなくなったってわけだ」
「に、兄さん?」
兄さんはボロボロと涙を流していた。
「んなっ、俺は泣いてねぇぞ」
そういいながらも着ている洋服でゴシゴシと目尻をこする。
兄さんは涙を全てふき取っていった。
「いいか、俺は泣いてない、わかったかヴェスト!!」
兄さんの強がり。
そっと俺は心の中で呟いた。
「というか俺にかまってないで仕事しろよ、ヴェスト」
兄さんはそういって、キィと扉を開け俺の部屋から出て行った。
「兄さん?強がりはもうよしてくれよ。俺がいるから、さ」
ヴェストの独白は誰にも届いていなかった。

俺は唄っていた。
誰もいない、静かな部屋で。

嘆きの唄

俺は、ヴェストが本を読んでいるときに唄を考えていた。
昔、フリッツ親父が教えてくれた。
悲しくなったら、自分で歌を作ってみろ、と。
俺はなんだか悲しくなる。
最近は戦ってないはず。と思い出す。
ふと、唄の歌詞が頭に浮かび上がる。
俺は歌い始める。最近何処かで聞いた音程を自分の歌詞に合わせながら。
「ギルベルト、何唄ってるんだ?」とヴェストが聞く。
俺は、幼い、いや興味津々な目をしているヴェストには教えられない。この歌の意味。

もう少しで、俺が消える。

ということを。わからせたくなかった。まだ、こいつの兄でいたかった。
だから俺はこういったんだ。"大人になったら教えてやるよ。ヴェスト"と。

長い月日がたち、俺の思っていたとおりになった。
ヴェストは俺よりかも栄え、俺の前に立つ。代わりに俺はヴェストの後ろへとまわる。
交代か、と思う。ヴェストは文明、文化…などが自分のとこに来て驚いただろうが、これが俺の全て。この後は自分の力でやってくれ。と思う。
「忙しそうだな?ヴェスト…」
と俺は呟く。ヴェストは兄さんと呟いて仕事に没頭していく。
かまってくれない。何故だ。小さい頃は…あいつら米と英みたいになってどうする。
俺は少し寂しくなって、唄を歌う。懐かしい、今歌っていない唄。
「兄さん、その唄」とヴェストはこっちを見る。
何故だかよくわからないが目の辺りが熱くなった。
でも、ヴェストの約束があった。"大人になったら教えてやるよ。ヴェスト"といった。その日。俺はわかっていた。こうなることが。俺がなくなることを。
「ヴェスト…この唄は…」
と俺は語り始める。 ポタポタと自分の服に涙のあとがつく。涙なんて流してないのに。ヴェストは幼いあの頃の顔をしながら俺の顔を見る。
「つらいのなら言わなくていいぞ。兄さん」
ヴェストは俺が涙をこぼしているのを見てこういった。でも約束は守る。あのときの俺はこう決めた。絶対に、涙を浮かべたってしっかりと約束を守ろうと。
「いや、平気だ。確か、昔約束したもんな」
俺はヴェストを心配させまいとして笑みを浮かべ語った。
「この唄はJeremias。勝手に俺が作り出した誰も知らない唄だ。まぁ、結構昔の唄の音程を借りたけどな。これで幼い頃のお前の疑問はなくなったってわけだ」
そういって俺はヴェストの顔を見た。
「に、兄さん?」
ヴェストが驚いた声を上げた。床にも服にも涙のあとがついていた。
「んなっ、俺は泣いてねぇぞ」
俺はこの姿をヴェストに見られたくなかった。だから裾で目をぬぐった。俺は全ての水滴を裾に付け終わっていった。
「いいか、俺は泣いてない、わかったかヴェスト!!」
そういって、最後にいや、今後もあるだろうが俺なりの強がりを見せた。
「というか俺にかまってないで仕事しろよ、ヴェスト」
俺はそういって、ヴェストの傍から離れた。いや、ヴェストの部屋から出て行った。
「ヴェスト、これから俺はお前の傍でお前を見守っててやるよ」
ギルベルトの独り言は誰にも届いていなかった。








08....?

結構前に書いて提出した作品。普+独兄弟祭:We are! 様に提出


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