もじ | ナノ
昔、俺の兄は違うところへと連れてかれた。
小さくて、弱虫な俺は兄さんを助けるすべを持っていなかった。
「にい、さん?」
兄さんは、にっとしたいつもの表情でわしゃわしゃと俺の髪を撫でる。
目が死んでいるようだったけど、俺は気づかなかった。
いや、気づきたくなかったのかもしれない。
「ヴェスト、いつか…また戻ってくるからな…」
そういって兄さんは寒い寒い極寒の地へ足を踏み入れた。
俺は一人で考えていた。
どうやって兄さんを連れ戻すか、その一つの考えを。

行く日か過ぎて大きな壁が出来た。
どうやら兄さんが逃げようとしたらしい。
ああ、考えている間に大きな隔たりができてしまった。
「にい、さん…」
俺は兄さんの名前を呼び、その壁に手を付けた。

周りの人に手伝ってもらい、壁を撤去した。
久しぶりに見る兄さんはやつれていた。
「に…に、にいさん?」
「ああ、ヴェストか…わりぃな…俺、お前に助けられちまったよ…自分で出るって決めたのによぉ…。俺弱くなっちまったんかな」
「にいさん、違うんだ、にいさん…」
弱かったのは昔の俺だ。
兄さんは全く弱くなんかない。
ごめん。その言葉は今いう言葉ではないけれど。
謝りたい。昔の兄さんにも、今の兄さんでも。

兄さんと一緒になってまた行く年が過ぎた。
もう、世界は平和だ。
別れることもない。離れることもない。隔たれることもない。
「にいさん」
「なんだ、ヴェスト」
「ごめん。そしてありがとう」

今、俺は言わなければならない言葉を言った。
兄はクエスチョンマークを浮かばせているが今日の日付を見て思い出したようだ。
「こちらこそ、ありがとな。ヴェスト。もう無理はしねぇよ」
兄さんは昔と同じ笑みを見せた。
でも一つだけ違った。
兄さんの目は、死んでいるようではなくなっていた。
今、兄さんの目はキラキラと輝いていた。

もう、離しは、しない。
今日という日付に俺は誓った。



091202




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