雨は嫌いだ。
セットした髪も台無しになるし、服の濡れるし、なにより傘を挿すのも面倒だ。
けれど俺が一番雨が嫌いな理由は・・・

***

今日は部活がいつもより早く終わった。
越野達にメシでもどうかと誘われたが気乗りがせず適当に断って体育館を出る。

「どーすっかな」
当てもなく通学路へと出たがなんだか家に帰るのもなと考えていた所、愛用のワックスがもうすぐ無くなりそうなのを思い出す。
折角だしそれを買いに行くかと駅へ続く道へと向うことにした。
海沿いにあるその道は、夏が終わりに近づいている今風が吹くと心地い。
暫く歩くと駅に着く。時刻表を見ると直ぐに電車はやってきた。
車内へ乗り込むとあまり開かない方のドア付近に立ちガラス越しに映る景色をボーっと眺める。
そのまましばらくすると目的の駅に着き中刷り広告を避けるように潜りながらホームへと降り立った。

駅を出てふと空を見上げると、厚い雲が空を覆う。

「こりゃひと雨来るな」
そう小さく呟くと足早に目的地に向けて歩きだした。

レトロな外装をした街並みが続く。
すれ違う人たちは、この天気に恐れをなしてか心なしか皆速足で通り過ぎていった。

目的にまで後少しということで、仙道の頬に冷たい一滴の雨が当たった。
それを機にいっきに雨の粒が降り注ぐ。

いけねぇ濡れちまう。と近くにビニールの屋根がついている店の前で雨宿りをすることにした。

「まいったな」と思いながら息を吐きだすと再び空を見上げる。
先程よりも雲はさらに厚くなり暫く雨は止みそうにもなかった。
なんではよりによってこんな日に買い物になんか来ちまったんだろうな。

***

1年前。

当時付き合っている、名前という彼女がいた。
名前なら俺がどんなことをしても受け入れてくれると思ってた。
けどそんなの俺の甘い考えだった。
俺が思っているほど彼女は強くなんかなかったんだ。

俺が陵南に行くのを決めた時の事だ。
彼女のことを好きでたまらなかった俺は彼女と離れ離れになるのが耐えられなく別れを切り出そうとした時
「俺、神奈川の高校に行くんだ。だから・・・」
「私、彰と離れ離れになってもずっと好きでいるからね。遠距離になっても平気だからね」
と名前はきっと彼女なりに色々考えた上で言ってくれたんだと思う。

それから中学卒業後すぐに住んでいた東京を離れ俺は神奈川で一人暮らし始めた。
進学してからお互い新生活に慣れるので精いっぱいで全然会えていなかったけど、連絡は毎日のようにしてた。
けど、時が経つにつれハードになる練習もあってか家に帰ると疲れて寝てしまうような日々が続き、名前からの連絡も返すのが遅くなるようになっていつしか溝が深まっていった。

きっとそれがいけなかったんだろう。
名前は、何も告げづに俺の元へと来たんだ。

その日は、俺が部活を終えて外へ出た時は晴れていた。
当時マネージャーだった2つ上の先輩は俺を気に入ってるのかしつこく付きまとってきて今日も一緒に帰ると言って聞かず仕方なく一緒に帰ることになった。
先輩は俺に気に入られようと、どこから出してるのかも分からないような猫なで声をだしてさりげなく俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
なにを言っても無駄なことを知っていた俺は特に咎めもせずにそのままにしていた。

急に俺の頬に冷たい雨が当たった。
すると、その後勢いよく雨がザーッと降ってきたの。
「きゃぁ!雨やだぁ」
隣で怯えるように絡ませていた腕にさらにギュッと甘えるように強く絡ませた先輩は、
「彰濡れちゃうよぉ。家もうすぐでしょ?雨宿りさせてよぉ」
と言って来た。
さすがに嫌だったが、この状況で先輩を置き去りにもできず渋々承諾した。
それが誤りだったことに俺は後で気づくことになる。

足早に俺のアパートへ向かう。
2Fにある俺の部屋に行くため外階段を駆け足で上ると俺の部屋の前に人影があった。
その人影は、足音を聞いてこちらを見た。
傘を持たずに来たのだろう名前は、俺のアパートの前でずぶ濡れのまま立っていたのだ。
「・・・名前?」
名前は顔を見て俺だと確認した後、言葉を発そうとした時
「あき「彰ぁ?だぁれその子ぉ」
先輩はタイミング悪く俺に名前の事を訪ねる。
丁度先輩は俺の体に隠れる感じで名前からは見えなかったのだろう、先輩をみて驚いた顔をした。
俺は慌てて名前に声をかけたが
「そっか。彼女が出来たから連絡しても返ってこなくなったんだね。」
「これはちが・・・「それならそれで早くいってくれれば良かったのに。私こんなところまで来てバカみたい。もう二度と来ないから。さよなら」
そういうと俺の横をすり抜けていった。

俺は、名前の腕を掴むことが出来なかった。
なにもやましいことなんかなかったけど、あんなに苦し気な表情を見たのは初めてだった。
いつだって強がりを隠してしまう彼女が初めて俺に見せたその表情をみて俺には掴む資格はないと思ったんだ。

***

俺は名前のことを思い出していた。
再び頭上を見ると少しだが晴れ間が見え隠れし始めた。

すると、前に傘を挿したカップルが通り過ぎる。
彼女の姿を見て俺は咄嗟に・・・名前?と声に出す。
一瞬彼女がこちらを見たような気がするけど、彼に呼ばれて足早に隣に並んだ。

俺があの時彼女の腕を掴んでちゃんと話をすることができてたなら違っていたかもしれない。
もう名前とは元には戻れないけど、誰かと幸せになって笑ってくれてたらいい。

「名前好きだよ・・・。今でも愛してる。」


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