雨の中、消えていく彼女の背中を見送った。
私のもとに残されたのは、うちひしがれたような情けない少年だけ。
そんな情けない少年がぶつぶつと呟く言葉がなぜだか癇にさわって、気づいたら私は叫んでいた。
「サトシのばかっ!」
「な、なんだよ、急に。」
「なんでカスミのことわかってあげられないのよ!この鈍感男!」
「なんでヒカリまで怒りだすんだよ!関係ないだろ!」
サトシは驚くのも無理はない。ついさっきまで彼はカスミに怒られていたのだから。でも、サトシの今の態度に納得がいかないのだ。
「そうよ、関係ないわよ。でもどうしようもなく腹が立つの!どうしてカスミのこと悪く言うの?カスミは正しい指摘をしてあげただけじゃない!」
「でもあいつ俺にばっかり突っかかってくるんだぜ?そんなに俺が気にくわないのかよ。」
「違うよ、サトシ。」
「…え?」
「カスミのこと、サトシはちっともわかってないのね。」
「そんなことヒカリに言う権利はないだろ。」
「あるよ。だってサトシを見てたらそうとしか思えないもん。」
カスミがあんなに真剣に怒るのもケンカするのも泣くのも、全部サトシだけなんだよ?まだ気づかないの?
「ねえ、サトシ。どうでもいい人にはカスミは怒ったりしないよ。だってどうでもいいんだから。カスミがあんな態度をとるのは怒る価値のある人だけ、だよ。」
「どういうこと?」
「だから、それだけサトシは大事にされてるの。サトシはカスミにとってどうでもいい人なんかじゃなくて、大切な人だってこと。そういう人なのよ、カスミは。」
こんなの気づけっていう方が無理だった?でも、ちゃんとわかってあげなきゃ。サトシだって、いつまでも純粋なままじゃいられないんだから。
「そんなの…わかんないよ。俺、人の感情とかうまく読めないし。そんなわかりにくい表現されたって…。」
「でも、わかったんでしょ。じゃあ、追いかけなきゃ。どこかで泣いてるよ、きっと。」
「うん…ありがとう、ヒカリ。」
伏せていた顔をあげて帽子のつばもぐっとあげて、駈け出したサトシに一言。
「ちなみに、私もどうでもいい人に怒ったりしないから。」
聞こえたかな?聞こえなくてもいいや。
「…あ。」
ごろん、とねっ転がって空を見上げて声をもらす。
雨はすっかり止んでいた。
* * *
申し訳ない、ヒカリちゃん。誰かとくっつけてあげられればいいのだけれど…。そして彼女の口調が全然わかりません。不自然かも…。