「あー、もう!何度言ったらわかるのよ。ほんっとに考えなしなんだから。」
「…ピカチュピ?」
「な、カスミには関係ないだろ!口出しするなよ!」
「ピカピ…?」
「もうあんたなんて知らないから!」
「俺だって!」
サトシとカスミが、またケンカをした。
次の朝には二人ともけろっとしていたりするのだけれど、もうこうなると今日は平和な旅は望めないな。タケシも僕も他のポケモンも、誰にだって止めることはできないのだから。
他の誰にも素直なサトシが、カスミを相手にすると何故かひねくれる。ずっと一緒にいたし、単純なサトシに関しては何もわからないことなんてないと思っていても、それだけが謎なんだ。
だいたいの場合はカスミが正しくて、サトシが負ける。でも、十回に一回くらいはサトシが勝っちゃうんだ。お得意の、理論を無視したぶっとんだ屁理屈で。
でも、そんなときに負けたカスミは悔しがるかといえばそうじゃなくて。目を細めて眩しいものでも見るような、そんな不思議な顔をする。その意味は、僕にはわからない。
いつだったかな、カスミが僕を抱きあげて言ったことがある。例の眩しそうな表情を浮かべて。
「ねえ、ピカチュウ。サトシってバカで無鉄砲で人に迷惑かけてばっかだけど、そんなあいつにあたしはいろんなこと教えられてるのよね。」
「ピカチュピ…?」
「あんたもそうでしょ?だからあいつなんかと一緒に旅をしてられるのよね。」
「ピッカ!」
僕が元気よく頷けば、カスミは遠い目をして言ったっけ。
「いっつもぶつかってばっかだけど、あいつは確かにあたしの人生に必要な人だわ…。」
だから、きっとこれでいいんだ。これが、僕らの平和な日常。
* * *
ピカ視点でした。ピカチュウも恋には鈍感なんだ。