「…あ。」
机の引き出しに懐かしいものを発見。
くすくす、と思わず笑いが起きた。
「何を笑っているんだい?」
後ろからは少しごきげんナナメな声。
「…あら、シゲル。なんだ、いたの?」
「なんだ、とはひどいな。」
「ごめんごめん。ちょっとね、昔のこと思い出してたの。」
ほら、と手の上のものを見せる。そこには、小さなモンスターボール。しかも半分に割れた、上の赤い部分。
「なーんかさ、あの頃のシゲル思いだしたら笑っちゃって。まったく、嫌味な奴だったわよね。いっつも綺麗なお姉さま方なんか連れちゃってさ、あたしたちにくってかかってきて。いつの間にこんなに成長しちゃったのかしら。」
「それを言うなら君もだろう。世界の美少女、なーんて言ってたのは、どこのどなたさんだい?」
「あら、あたしは今だって世界の美少女よ。」
優しく笑ったシゲルは、遠い目をした。
昔に思いを馳せているのだろうか、そう考えたらちょっとだけ、不安になった。
「あの頃に戻りたい?」
「…いや?なぜ?」
「なんだか…昔のことを話すシゲルはいつも楽しそうだから。」
「…君は?」
「あたし?」
「毎日旅をしていた。あの頃に戻りたくはない?」
窓の外に目を向けて遥か遠くの空を見つめれば、ああ、こんなにも鮮やかに記憶が蘇ってくる。
考えてみれば、そうね。毎日が輝いていたわ、確かに。いろんなことがあって刺激的で。
「でも、あたしはもう小さな女の子じゃないの。」
その証拠にね、昔を思い出そうとすると目を細めちゃうのよ、眩しすぎて。
きっと、シゲルもそうなんじゃない?
「僕だってそうさ。もう子供じゃない。」
ぐっと力強い腕に引き寄せられた。
すぐ近くにあったシゲルの頬にキスをひとつ、プレゼント。
「あの頃はキスの仕方だって知らなかったしね。」
「…僕がキスするだけで真っ赤になってたカスミも、可愛かったんだけどな。」
「なに言ってんの、今も充分可愛いじゃない。」
こんな今が最高に幸せ。結局、あたしはそれだけでいいの。
* * *