「さむいなあ…」


ぽつりと呟かれた言葉をオレの耳は聞き逃さなかった。


「だったらもっと厚着すりゃあいいのに」

「うるっさいわね!誰も寒いなんか言ってないでしょ!」

「たった今、カスミが言ったんじゃんか!」

「なに勝手に聞いてんのよ!」


…理不尽にも程がある。なんでオレが怒られなきゃいけないんだ。



雪も降ろうかというこの季節に、なおショートパンツでいようとするカスミの気持ちはまったく理解できない。

というか夏でもできればやめてほしい。…目のやりどころに困る。



「オレの上着貸そうか?」

「…いいわよ、別に。サトシが寒いじゃない。」


風邪でも引かれたら迷惑だ、と言わんばかりの口調だけど、ぐるぐる巻きにしたマフラーで隠されて表情は見えない。

もしかしたら心配してくれたのか、なんて。



「…カスミ、やっぱこれ着ろ」

「だから、いらないって言ったじゃない」

「その代わりマフラー取って」



「…は?なんで?」


怪訝そうな顔をしたカスミに有無を言わさず上着を押し付け、マフラーをくるくると巻き取る。



うん、これでよし。


「それ、キスするのにすっげー邪魔」



抱き寄せて、暖かいキスをひとつ。

カスミの顔の火照りを確認して、オレは満足気に笑った。



* * *


いつも思う。カスミ、冬はどうしてるんだろう。


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