「あら、」







長く腰まで伸びた、元気なオレンジの髪。ショートパンツから出たすらりと長い脚。気の強そうな翠色の瞳。



「どこかで見たような…だれだっけ?」



ハナダの街をあてもなく歩くこと小一時間、見知った人影を見つけた。人に囲まれているものだから、最初はてっきり有名人でもいるのかと思ったけれど、あたしの記憶によれば違う。


「でもどっかで見たことあんのよねえ…。」












「カスミさん!あ、あの、これチョコなんですけど、もらってくれませんか?」

「あら、ありがとう。でも今あたし何も持ってないのよね…。」

「いえ、お返しなんて全然いいです!私があげたかっただけなので。」

「でもそれじゃ悪いわ。あとでハナダジムにいらっしゃい。何か用意して待ってるから。」

「ありがとうございます!」








ふと耳に入ってきた会話に、彼女の名前らしきものを見つけた。

かすみ、かすみ…カスミ?




「ああ!あんた、ジャリガール!!」


うんうん、ジャリボーイに一番最初にくっついてた小生意気なあの娘だわ。
思い出してすっきり。



よかったよかったと歩き出そうとしたら



「あ…。」


気づけば周りには誰もいなかった。往来で大声で叫んだら、まあそりゃこうなるわね。今日は任務じゃないからどれだけ目立ったっていいけどさ。でもやっぱり悪の組織のロケット団としては、あんまり人目につきたくはないもんだわ。


そそくさと立ち去ろうとしたら、翠色の瞳とばっちり目が合ってしまった。





「あー、あんたロケット団!」

「げ、見つかった。」

「あんた、こんなところで何してんの?しかも、バレンタインなのに一人っきりで。あ、もしかしてとうとうロケット団クビになったとか?無理もないわよねえ、あんだけ失敗してれば。」



久しぶりの再会もなにもあったもんじゃない。そりゃあ別に、あたしとあんたは敵同士で、仲間でも何でもなかったけどさ、それはないんじゃない?



「あいっかわらず生意気な小娘よね。今日は休日なの!あたしたちにだって休みくらいあるわよ。」

「それってただ単に仕事がないだけなんじゃない?」

「あーもう!むかつくむかつくむかつく!じゃ、じゃりがーる、あんたこそ一人で何してんのよ。」


おっとっと。目の前の彼女が、ジャリガールなんて言葉が似合わないくらいに成長してるもんだから(あくまで容姿だけね)、うっかり噛んでしまった。



「あたしはただ買い物してるだけよ。今日はお菓子でもつくろうかなあ、なんてね。」

「げ、あんた料理壊滅的じゃなかったっけ?」

「うるさいわね。あの頃から何年経ってると思ってんの。あたしだって成長したのよ。」

「へえ、成長ねえ…。ジャリボーイがお腹壊さなきゃいいけど。あ、でもそうしたらピカチュウも狙い目かしらね。」


あら、こっちはすんなり言えた。それだけ、あいつが成長してないってことかしら。

…ううん、違うわね。このジャリガールがいなくなってから、あいつは少し大人っぽくなった気がする。それが、年月のせいか、わざと大人ぶってるだけなのかはわかんないけど。


「…へ?あたしサトシになんかあげないけど。」

「え、違うの?…そういえば、あんたたちってどうなってんの?ジャリボーイって、いろんなジャリガール引き連れ回してるけど。」

「あー、今シンオウとかにいるんだっけ?どんなとこだか知らないけど、あいつがいろんな人振り回してるのが想像できるわ…。」

「え、あんた連絡とってないの?」

「あいつがまめに連絡なんかすると思う?」

「確かに…。でもあんたってあいつのこと好きじゃなかったっけ?」

「…さあね。わかんないわ。」


うーん、微妙な乙女心ってやつか。
それならこのムサシさまが一肌脱いでやろうじゃないの!




「じゃあ、また今度あたしたちがこっちに来たら、ジャリボーイの様子、あんたに教えてあげるわ。」

「それってサトシに吹っ飛ばされる前提ってこと?」



あーもう、ああ言えばこう言う!人がせっかく親切心で言ってやってんのに、こいつときたら、鼻で笑いながら言うんだから。




「嘘よ。別にそんなのいいわ。あたし、そんな弱くないもの。同情なんてしてもらわなくても大丈夫よ。別に切ない片思いしてるわけでもないし。あんたと違って恋人候補ならいくらでもいるんだから。」

「…ほんっとにムカつく。」

「ふふん。じゃあね、あたしそろそろ行くから。あんたもバレンタインくらい楽しんだら?」

「そんなのあたしには関係ないね!」

「素直じゃないんだから。…じゃあ、またいつかね。」



二度目のさよならを言って立ち去る後ろ姿を眺める。強く、前にずんずん突き進むさまが、何故かあいつを思い起こさせた。





「ジャリガールじゃないとしたら何て呼べばいいんだろう。砂利…の次は石、石の次は岩、その次は…崖?うーん、どれもしっくり来ないわね。」


ってことは、まだまだジャリンコてことね。







「ジャリガール、あんたなかなかいい女じゃないの。」



まあ、あたしには到底叶わないけどさ。




* * *

バレンタイン、本筋には全然関係ないですが。ムサシとカスミの絡みだいすき。



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