インターホンがなった。
誰が来たのかを確認することもなく、それでも僕は彼女の名を呼びながらドアを開ける。
「やあ、カスミ。」
「シゲル、ほら、ケーキよ。」
カスミは買ってきたのであろう、綺麗にラッピングされたそれを掲げた。
「おじゃましまーす!…あれ、誰もいないの?」
「まあ、クリスマスだしね。僕は研究があるから残っていたけれど。」
一歩部屋に入ったカスミは、研究所の様子に目を丸くした。
「暗い部屋ねー、まったく。机と椅子しかないじゃない。せっかくのクリスマスなのに、デートの予定もないの?寂しい人ね。」
「失礼だな。僕は相手が多すぎて選べなかっただけさ。君こそ、何の予定もないのかい?」
「あたしは、シゲルが一人じゃ寂しいかなあって思って、来てあげたのよ。」
「僕だってそうさ。僕が予定を入れてしまったら、君はここで一人になってしまうからね。仕方なく残っていたんだよ。」
確かに、薄暗い殺風景なこの部屋は、きらきらした街の様子とは正反対だと思いはするけれど。
それでも、寂しさは感じない。
むしろ、クリスマスは楽しみだったりした。何が起こるわけでもないのに。
「…変わらないわね、あたしたち」
「ああ、そうだな。」
本当は心のどこかで期待していたのかもしれない。
「まあ、あたしは来年は素敵な彼氏と素敵なクリスマスを過ごすつもりだけどね!」
「…それ、去年も言ってなかったっけ?」
「うるさいわね!来年こそ、よ!」
いつの間にか、彼女と過ごすクリスマスが当たり前になっていた。
ただそれだけの曖昧な関係だけれど、これこそが僕の望んでいたもので。
だから、僕はきっと来年も願うのだろう。
この当たり前が続きますように、と。
「メリークリスマス、カスミ。」
* * *
なんかもうごめんなさい。クリスマス小説ということにしておいてください…
カスミとシゲルの会話がこんな感じだったらいいなあ、なんて。
シゲルの性格が初期っぽいですね、なんだか。