そんなのとっくに、わかってた…つもりなんだけどなあ。
「ねえ、ちょっとあれ…シゲル様じゃない?」
「じゃあ、隣にいる子ってもしかして彼女だったりして?」
「えー!なんであんな可愛くない子がシゲル様の彼女なの?」
「信じらんなーい!全然似合ってないじゃない。」
ちくり、ちくり。周りの会話が嫌でも聞こえてきて、それが小さなトゲとなって胸を刺す。
これくらい予想できたはずなのに、な。シゲルと街を歩けば、こうなることくらい。
「…カスミ?」
なんで、そんな声であたしを呼ぶの?
「全く、世界の美少女に向かって何て口聞いてんのかしらね。」
「…カスミ。」
「失礼しちゃうわ。あの子たちの目、節穴なんじゃないの。」
「カスミ!」
「…なによ。」
キッと隣をにらみつければ、ふわっと暖かいものに包まれた。
「なんとか言いなさいよ。」
「…カスミ。」
「さっきからそればっかりじゃない。」
うそ。本当は、何も言ってほしくなんかないの。
どうして。どうしてシゲルには全部わかっちゃうんだろう。何も言ってほしくないってことも、欲しいのは言葉なんかじゃなくてあなたの温もりだってことも。
シゲルの腕の中はあまりにも暖かすぎて、その暖かさに涙が出てきた。
「本当はね、わかってるのよ。あたしだって鏡くらい見たことあるわ。目だって節穴じゃないもの、全然可愛くないことくらいわかってる。」
ああ、困ったなあ。全然涙が止まらない。本当はこんなに甘えたりするキャラじゃないのに。シゲルといると調子狂っちゃうよ。
「でもね…やってられなかったの。こうでも言っていないと、自分を保てなかったの」
そうしてわんわん泣いた。シゲルは全部全部、受け止めてくれた。
これじゃあ、いつまで経ってもシゲルには敵わないままじゃない。情けないなあ、そう思ってちょっと笑ったら、その気配を感じたのか体を離された。
だめ、泣いてるぐちゃぐちゃなひどい顔なんて見せられない。うつむいて顔を隠しても、あごに手をかけられて上げた視線の先にはシゲルの目。
やっぱりシゲルは格好良い。釣り合わないなんて当然よね。
思わず目をそらしてしまった。だって今あたし、どんな顔してるんだろ。もともと可愛くない顔がさらにひどくなってそう。なんでシゲルはこんなあたしがいいのかな。顔も心も、醜くて嫌になっちゃう。
「カスミ、ひとついいことを教えてあげようか。」
「…なに?」
「カスミは僕が見た女の子の中で一番可愛い女の子だよ。」
また目をあげると、何でも見透かしたような笑顔と出会った。
全部わかってしまっているのかもしれない、シゲルは。
それならせめて、一番いい笑顔でいなきゃ。
「ありがとう、シゲル!」
涙をごしごしぬぐってとびっきりの笑顔を向けたら、シゲルは何故か口ごもってくるりと背を向けてしまった。
「どうしたのよ?」
「いや…別に。」
(可愛いとか美人とかそんなのは主観の問題だ。ただ、誰もが認めるのは君は魅力的な女の子だと言う事で、それが一番やっかいなんだ)
* * *
お久しぶりです。シゲカスです。カスミちゃんのコンプレックスを書きたかった…が、撃沈。