gift小説 | ナノ

毎晩王宮に忍び込んでは私に会いに来る彼は馬鹿だ。でも会いに来てくれるのは嬉しいし私も彼に会いたいと思っているから、来ないでとは言わない。


「今宵も美しいなァ、姫様よ」

「馬鹿にしないで」

「馬鹿だから仕方ねぇ」


誰かに見つかったら大変だと思い外に出よう、と誘うと彼は呆れたような笑みでやめとけ、と言った。


「自分の心配をした方がいいんじゃねぇか」

「どういうことかしら?」

「王様に嫌われても知らねぇぜ」

「ここにいたって一緒じゃない」


彼の手をとって再び外に行こう、と誘う。実際私はあまり外に出たことがなく、出てみたいという気持ちだった。しつこく誘っても彼は首を縦に振ってくれない。


「そんなに外が危険なの?」

「姫様にはちっと危ねぇな」

「そんなこと、」


言い返そうとすると彼は弱々しく笑ってから、何かを決意した様子で腰掛けていたベッドから立ち上がった。少しおかしく感じながらもう行ってしまうの?と聞けばおう、とだけ返事をしてそそくさと部屋から出て行ってしまった。

彼が来たときに気づくべきだった。夜中なのに高笑いしたり、いつものように手を出してきたり、そんな様子少しも見せなかった。明らかにいつもと違った彼にどうして私は気づかなかったのだろう。

急いで部屋から出て彼を探し回る。王宮からは出ているはずだから、私は戸惑うことなく王宮から出た。外に出ると、ひんやりとした夜風を頬に感じた。暗い中辺りを見渡すと彼の背中が目に入った。


「待って!」

「外、出ちまったのか。まぁ最後にお前の顔が見れて俺様は幸せ者だぜ」


私はわかっていた。いつもの彼じゃないと気づいていながらも、自分でそれを認めたくなかっただけだった。私は一度深呼吸をしてから彼に言った。


「…あなたの名前を、教えてくれる?」


本当は行かないで、なんて言えたらよかったのに。彼が私の前から消えてしまうなんて、もうその笑顔も声も全部最後だなんて認めたくない。心の中で行かないで、と繰り返しても意味がないことはわかってるのに。


「バクラだ」


彼は名前を告げると、背を向けて行ってしまった。その背中を、私はただ見つめるだけだった。









さようなら
(来世できっと会いましょう)



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