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「おい、城之内」



「何……んっ…」



振り返りざまの、不意打ちキス


触れたところから全身へ、疼くような電流が走る




海馬は俺の体を抱き寄せると、ふたり分の体重をソファに預けさせた




(あー…なんか、慣れねー…)




想いを伝えて、こうなってから、もうふた月も経つっつーのに…


海馬とキスしたり、抱きしめられたりするのに、まだ体が慣れていない


(…だって、嘘みてぇなんだもん)






付き合うとかありえないと思ってたのに


むしろ拒絶されるんじゃねえかって、ビビってたくらいなのに


まさかのまさか、ずっとずーっと好きだった奴と、こうしてることが、幸せすぎて…



だから、今、この瞬間が、夢とか幻みたいに思えてくる



(これで、いいんだよな…?)




そんなことを思ってるなんて知りもしない海馬は、俺の頭をすっぽりと抱きかかえている


そして俺も、背中に腕を回して抱き着く





…付き合う前の俺のこと


お前には言ってないけどさ…



「凡骨」だとか、「負け犬」だとかでも、なんだかんだちゃんと、俺と話してくれた時


まあ、ちょっとはムカついた…ってか、かなりムカついたけど

でも例え、けなされたとしても、俺を見てくれたことに、ずっと喜びを感じてたんだ



だからお前には、突っ掛かったり、殴ったり、いろいろしたんだよ


誰よりも遥か彼方にいるお前を……海馬を振り向かせたかったから




でもこうして、目の前に愛しい本人がいて、抱きしめられていることが


「やっぱり、信じらんねーよ…」











顔を押し付けてるせいで、もごもごした声が海馬の胸元で震え、消えていった



「何がだ」


「…なんでもね」

低くて、耳の中を這うような甘い声が、直接鼓膜を震わせる


「ふん…」


お得意の、人を嘲るような笑いで、くすぐるように耳に息がかかった


「…抱きしめられてることが、か?」


「ばっ…んなんじゃねーし!」



とっさに体を離すと、少し高いところから、海馬がじっと俺を見ていた



何でも見透かすような、綺麗な碧で



…ああ、そうだ、俺はこの碧に惹かれたんだ


「…なー、海馬」


「うん?」



好き、なんて、告った時以来一度も言ったことがなかった


そんなこと、恥ずかしくて顔から火が出るっつの


でも、今なら、透き通った碧に誘われて、もう一度俺の素直な気持ちを、言えるかもしんねえ…






「やっぱり、お前のこと、すげー…」





好きだ








「……っ」


…肝心な言葉が、出ない…!


ああ、なんか、急に恥ずかしくなってきた…





「俺のことが、すごく、なんだ」


「う、あ、えっと、だから…」


見据えられているせいで、ますます焦る



「す、…す…」


「す?」


「……す、」


「す、が何だ」


「…ああもう……察しろよ!」


…俺、告白したとき、どうしたんだっけ?


「察しろ、だと?無理を言うな」


「ここまで言えば分かんだろ!」


ああ…もう、すっげー恥ずかしくて、さっきより更に、ぎゅーっと顔を押し付けた


「分からんなァ…、きちんと言え」






いや、これお前、絶対分かってるだろ…


どこか、悪魔的な笑みを含んだ声が、俺の羞恥をますます煽る


「だーかーら、察しろってば!」


「できるか、馬鹿者。何故この俺が貴様の為に第六感を使わねばならんのだ」


「…い…言えねえから、察しろって」


もどかしい…なんで、すんでのところで止めちまうんだろう



「…、っ…ああ、言えねえんだよっ!!」



そう言うと、海馬はスッと俺の顔を覗き込んだ




きらりと光る瞳の奥が、いかにも楽しそうに笑う


「早く吐いてしまえ、楽になるぞ」


「〜〜〜〜っ!!」


だからこいつはっ…!!



ドS、鬼畜、バカイバ、女王様野郎め!














「す、…好、」





き…














…あれ?





目の前が肌色でぼやけている



唇には、柔らかな感触





「ああ、今、何か言ったか?キスで聞こえなかった」













「い…今、今言っ…」


「もう一度、言え」











「………っのやろ…!!!!」


ぎりりと海馬を睨みつけ、同時に、かぁっと顔が熱くなるのが分かる


恥ずかしくて、でもなんか嬉しくて、ちょっと悔しくて…





そのぐるぐる回る気持ちを、拳一つで、海馬の胸を叩いた










(っんとに、マジで死ね…)


(愛しい者を抱えて死ぬなら本望だな)













初々しい、俺達の…春









Turn End...

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