通常小説 | ナノ


放課後、陽はすっかり暮れた


獏良はマンションの近くにある公園へ向かった


毎日、少年はこの時間にここに来る


陽か落ちて、少しした頃


この時間が、少年にとって一番心地よかった


昼間の騒がしさも


夕方のざわざわした悲しげな空気も


深夜の胸騒ぎのする冷たさも


この時間には無い



「おはよう」



公園の隅っこに来ると、少年はいつもそう挨拶をする


盛り上がった地面に向かって



「今日もよく眠れた?」


少年はしゃがみこむと、盛り上がった土を見つめて言った


「そっちのご飯は美味しい?」



盛り上がった土を、指で軽く叩く


「今日もいい風が吹いてるよ。今からお前の時間だね」


夜の空気を纏った黒いコート


ここに来るとき、少年はそのコートを羽織る


数分だけ、彼と話をするために



数分だけ、彼と近づくために



「最近、お前のことをよく思い出すよ。頭に響く声とか、いろいろ…」


掌で、ぺちぺちと盛り上がった土を叩く


「声はわかるんだ。お前の背格好とかも、なんとなく」


盛り上がった土を、今度は撫でていく



「でも、限界がある」



撫でる手が、止まった



「わからないんだ。お前のこと。…いや、違う…知らないんだよ…」







    僕は何も







  お前の事を知らない






「知ってるのは簡単なことだけ。遊戯くん達から聞いた、簡単なことだけ」




少年は土をつかみ、盛り上がった地面に重ねていく



「お前が邪神だとか、盗賊王だとか、復讐しようとしてたとか…そんなことだけ」





土が重なる、重なる




地面は盛り上がる





「お前の内側のこと、何も知らない、知らないんだ…!お前何もおしえてくれなかったから!!」




土が被さる


少年は次から次へと土をつかんでは、盛り上がった地面に投げつけるように重ねた


「なんで何も言ってくれなかったんだ!何か…何か教えてくれてたら…お前は…」




少年は、盛り上がった地面を覆い被さるようにして抱き締めた




「別の道に行けたかもしれない…」




この盛り上がった地面は、確かに墓だった





彼の、墓だった




「僕もお前も、独りぼっち…」





だが中には何も、入ってはいなかった





入っているとしたら記憶だけ




霞んでしまいそうな小さな記憶だけが入っていた




「…眠るのに飽きたら…戻っておいで…」




少年は土を抱き締めながら、静かに目を閉じた



ひんやりとした土の冷たさが、まるで彼の魂のように思えた



「…待ってるからさ。戻ってきたら…」



土は冷たく、少年の体温を吸いとる




「そのときは…たくさんお前のことおしえてもらうから」




少年はコツンと額を土にあてると、腕を離した




「飽きるまで眠ってていいよ。飽きたら起きればいい」




少年は立ち上がり、服についた土を払った





「しばらく来ないことにするよ。お前のことを何か思い出せたら、また来る」




少年はそう言うと、真っ黒の空を少しだけ見上げて、彼を背にして歩き出した


数ヶ月後、盛り上がった土は平らになっていた




(名前を呼んでも返事はないのに、寝る前には必ず口にしてる…)

――――――――
はじめてのノーマル小説でした

宿主病み気味

とりあえず、一番近くにいた僕が、一番お前のことを知らなかったことがちょっと悔しいんだっていう宿主でした

バクラがホントは優しいってことは、見たことなくても、なんとなく宿主だけは知ってる…といいなという願望でできちゃいました笑
最後、なぜ土が平らになったのかは、皆様のご想像にお任せします
どのパターンも有り…な気がするので←
にしても、これってBL?
not BL?




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