夢SS アホ | ナノ



真っ赤に染まった夕焼け空が、少しずつ落ち着きを取り戻したように紫色に変わる…


只今下校中


と言っても、体は宿主が動かしてる


オレ様は完全な幽霊状態だ

こうやって宿主と話すのにもだいぶ慣れてきた



「ん〜…」

宿主はさっきから歩きながらメールを打ってる


「おい、宿主、前見て歩かねぇと転ぶぞ」

「あれ!?心配してくれてるの?優しいんだぁ〜」


宿主は、からかうようにケラケラ笑ってやがる

「バカ。ちげーよ。今度オレ様がその体使うときにおめぇが転んだ傷の痛みを味わうのはゴメンなんだよ。」


「なぁ〜んだ」

宿主は口を尖らせてまたメールを打ち始める


親指の動きがハンパなく早ぇ…

「…急ぎの用なのか?」


「…ん〜…まぁ…」

「…遊戯のやつか?」


「…ううん…」

「…女か?」


「…ん〜…うん」

「…取り巻きの奴らか?」


「…ううん…」


ん〜か、ううんくらいしか言わねぇ…

うぜぇ…


「…おい、誰だよ」


「…気になる?」

いきなり宿主がオレ様の方を向いた。


「…まぁな…オレ様も関係あることか…?」

「あ〜…」


宿主は空を見上げてしばらく考えてから口を開いた




「…大有り…かなぁ…」




「なんだと!?」


そう言われるとさすがに相手が誰か気になる

「おい!誰だ!?」


「…………」

宿主は無視してメールを打ち続ける


「宿主!」





「…名前ちゃんだよ」



仕方ないと言うように、宿主はスパッと答えた



「…名前・・・?」


さすがにその名前を聞いて固まった

名前…


オレ様が近頃変なのはその名前のせいだからだ

『バクラの中、いろんなものがぐるぐるして…渦になってるみたい…』



名前…




『…あたしに吐き出して…?』


この前倉庫で言われたことがリピートする

アイツは…オレ様のぐらぐらの状態に気づいたのか…?


それとも適当に言っただけなのか…

クソッ…元はと言えば、原因は名前じゃねぇか!




「…バクラ百面相〜ぅ」

「…あ?」


気づくと、宿主がオレ様をずっと見てた

「…見んな。潰すぞ」


「バクラが痛いの体験することになるけど?」

「…………」


宿主には手が出せない

自分に返ってくるからだ


前は特に気にしないで宿主の体を使ってる時に怪我したりいろいろしてたが、さすがに本人とこうして話せるようになると、少し事情が変わってくる

「……よし、送信〜」


ぼ〜っとしてると、メールを打ち終わったらしい宿主は送信ボタンを押してメールを送った



…名前に…



オレ様が関わってる話らしい


…気になる…


「…なんて送ったんだ…?」


「え〜…それ聞くの?」

「オレ様が関係してんだろーが」


「でも、メールの内容はさすがにプライバシーがね〜…」

「…オレ様の知る権利は?」


「ないかなっ」

宿主のやつ…軽やかに言いやがった…


腹立つ…


それより腹立つのは、宿主が名前とメールしてることだ


オレ様用のケータイはあるが、名前とはあまりメールとかはしない

…宿主はしてる


…なんだ、モヤモヤする


そういえば、宿主は最近よくメールを打ってる気がする


…まさか、全部相手は名前なのか…?

…イライラする…




イライラしたまま宿主について歩いていると、いつの間にか家に着いてた


家に着くなり、直ぐに宿主はリビングのソファーにダイブした

「つっかれたぁ〜…」


そう言うと宿主は、学ランの上着を乱雑に脱いで床に置き、ズボンのベルトも外す

「…オヤジかおめぇは」


「…だってホントに疲れてるんだもん。学校にフルでいるのはけっこうキツイんだよ!?」

「フルでいるのが当たり前だろーが」


「あ〜冷たいなぁ〜。バクラ冷たい。」

こうなると宿主は限りなくウザくなるからしばらく放っておくことにした

オレ様もソファーに座ろうかと思ったら、宿主がテーブルの上に置いたケータイのバイブが鳴った



『メール受信』


スライド式のケータイなので、画面にメール受信の文字が見える



『メール一件、差出人』…





『苗字 名前』





名前を見たとき、身体中がカァっと熱くなった


脈拍も、イライラも、激しくなる

「おっと…返事かなぁ…?」


宿主がケータイを取ってメールを読んでる

もし、今オレ様に体があったら、あのケータイ奪い取ってメール読んでやるとこなのに…


いや、内容見ずに消去だな…

「ふふっ…」


宿主が小さく笑う

「…あ〜…そっかぁ…」


宿主の独り言が妙に耳につく

差出人は確かに名前だった

宿主と名前は今メールをしてる

話題はオレ様…?


宿主は内容を教えない

オレ様はあまり名前とこういうことはしない


名前が…オレ様の話題でメールするのは宿主とメールしたいからか…?

それとも宿主がオレ様の話を持ち出して名前とメールする口実を作ったのか…?


イライラする…

モヤモヤする…




『…あたしに吐き出して…?』



確かにアイツはオレ様にそう言った

オレ様に触れてそう言った


あの時気づいた

アイツなら…


名前なら…

オレ様は…


「…ほい、そ〜し〜ん」


宿主は名前に返事を返したみたいだ

「…バクラ、ちょっと恐いんだけど。僕のこと睨みすぎ」


「…あ?」

無意識に宿主を睨んでたらしい


「…はぁ〜。さっさとお風呂入って寝ちゃお〜。夕飯は冷蔵庫のシュークリームでいいや〜」

そう言って宿主は風呂場に向かった


リビングにはオレ様と宿主のケータイだけが残された


気になる…


気になる…


名前は宿主とどんな内容を話してるんだ?


オレ様のこと、宿主になんて言ってるんだ?

オレ様のこと、どう思ってるんだ?



知りたい

触れたい


声が聞きたい…

またぐらぐらし始めた




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