夢SS アホ | ナノ



新月の夜、街はいつもの賑やかさを隠して静かに眠る…
闇だけが、ざわめく…




「…っガハッ!」
「…ケッ…!」




弱ぇ…





「…んだよ…喧嘩売ってきたのはそっちじゃねーかよ。三人がかりできたくせによ…」

「…ヒッ…ぁあっ…」

口から血を流しながら張って逃げようとした奴に蹴りを入れる。

「…オラァ!つまんねーよ!逃げんじゃねー!」
「…ぐふっ!」

男は血を口から吐いて気を失った。

「…チッ…のびやがって…」




つまんねー…

つまんねぇ…?




違う…




モヤモヤする…

止まない…

もうずっとだ

動悸が早くなって、頭抱えて、ぶっ壊したくなる




「…クソッ!」




どうにもできないこの感覚を忘れたくて、オレ様はそこらへんに転がってるドラム缶を適当に蹴った。




港の近くにある、もう使われなくなった倉庫…


ここはガラの悪い奴らのたまり場になっていて、人がぶっ倒れてるなんて日常茶飯事だ。

オレ様は、上手くいかないことがあるとここに来て溜まったストレスを発散させる。

オレ様が前の戦いで消える前はよくこうして楽しんでた。

無駄なストレスも溜まらなくて、楽だった。

「…なんで…だ…」





今は違う…

どんなことをしたっておさまらない

胸の奥にあるぐらぐらしたもの…

街で言いがかりをつけてきた野郎共を路地で潰して、言い寄ってきた女を望み通りめちゃくちゃにして抱いてやった。




おさまらない




違う…

違うっ!

どうすればいい…?

どうすれば消える…?





「…何が…違う…?」





どう違うんだ…?

わからない

わからないっ…!





「…ハァッ…クソッ!」

どうにもできなくて、側でのびてる男を思いっきり蹴った。

このぐらぐらしたものが、どうやったら消えるのかはわからない。

だが、どうしてこんな状態になったのかはうっすら気づいている。





「…アイツだ…」







そう




あの女…




真っ白い肌、ふわふわした髪…
季節外れの転校生…




「…なんで…なんでアイツはオレ様に対してあんな風に笑う…?」



アイツのふわふわした笑った顔が…



「…なんで…ああやってオレ様に触れる…?」

そっと、柔らかい花でも触るみたいにオレ様の手に触れる…





イライラする…




明らかにあの女が原因だ



オレ様は頭を抱えて座り込んだ

あの女が原因なら、消してしまえばいい

元が消えればこのぐらぐらも消える…

それでこそ、今日言い寄ってきた女みたいにめちゃくちゃに抱いてぶっ壊してしまおうか…




「…でき…ねぇんだよ…それが…」





それが出来ればとっくにしてる

遊戯たちと和解したとはいえ、この世の中の秩序なんてものには興味はない

殺そうと思えば殺せる

壊そうと思えば壊せる




「…できねぇ…できねぇっ…」



アイツが消えればこのぐらぐらも消える

それはきっと良いことだ

だが…





「…恐ぇ…恐ぇんだよ…」



アイツが消える

それだけのことが、オレ様自身を切り刻むような恐怖に感じる





「…わからない…」


結局こうして振り出しに戻る
ここのところずっと、オレ様はこれを繰り返し続けてる






前に、遊戯と和解する前のオレ様の話をアイツにしたことがある



恐がればいい…



恐がって、逃げて、オレ様から離れて…



二度と触れられない距離を保って…



そう思って、




話した





話を静かに聞いたアイツは、真っ直ぐオレ様を見つめて、微笑んだ





『バクラ、いっぱいいろんなことあったんだね』


恐がらねぇ…




『バクラの中、たくさん壁があるんだね…』


意味がわかんねぇ…




『恐かった…?』


おめぇの方が恐ぇ…





『でも、あたしは、今のバクラ好きだよ…?』






好き…?





『話してくれた、前のバクラも好きだよ?』


…理解…不能だ…




『バクラだもんっ。前も今も大好きだよっ』






…大好き…?





「…大好き…?」





アイツが言った言葉を口にすると、アイツの笑顔が鮮明に頭に浮かんできた


「…っ…わけわかんねぇんだよ!!」

床に転がってる鉄パイプを掴んで、ドアに向かって乱暴に投げつけた


「…あ!」

鉄パイプがドアにぶつかった金属の音と同時に、小さく女の声がした





「…!?」

オレ様はまさかと思って、ドアの方を見た




「…よかった…バクラ、見つけた…」






…ありえない





なんでコイツがここにいる…?


オレ様のぐらぐらの原因…





名前…







ぽかんと名前を見ていると、名前はちょこちょこと小走りでオレ様に近づいてきた

「城之内が、バクラはよくここにいるよって教えてくれて…」


コイツ…よくこの一番奥の倉庫まで無事で来れたな…

こんな上玉、他の倉庫に溜まってるやつらが見逃すわけはねぇ…


「…城之内が一緒に来てくれるって言ってたんだけど、いきなりバイト入って…。あたし独りで来ちゃった」




城之内…




コイツの口から城之内の名前を聞く度に、オレ様の中にあるぐらぐらとは別のモヤモヤしたものが増した



「城之内にはここに来るの止められたんだけど…どうしても…渡さなきゃって思って…」

「…あ?」


名前は制服のポケットから何かを取り出してオレ様に渡した




ケータイ…


宿主とは別々に持つようにしたんだった

「学校に忘れていったみたいだったから…困ってるんじゃないかなって…」


オレ様がケータイを受け取ると…





また、名前はふわっと笑った


「……っ!」





名前が笑った時、オレ様の中が大きくぐらついて、落ち着いて座っていられずにいきなり立ち上がった


「…っ!?…バ、バクラ…?」

キョトンとした顔してやがる


オレ様は名前を見下ろして睨み付けた

「…………?」


相変わらずキョトンとしてやがる




…イライラする…



モヤモヤする…



「バクラ…?」





ぐらぐらするっ!!





「…っひゃっ!?」


オレ様は名前の腕を掴んで倉庫の壁に押さえつけた



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