MAIL‐5‐
俺は、どんな反応をしたら
いいんだろう。
あのメール、シズちゃんにとっては、さりげないメールだったのかな。
なんであのメールを俺にくれたんだろう。
俺の事、暇人だと思ってるのかな?
…そういえば俺、シズちゃんからきたメール、即返信してたし。ありえない事ではない。
はたまた違う人に送るつもりのメールを間違えて俺に送ってしまっただけのメールだったり。
……これもありえる。
あるいは、ないと思うんだけど――ないと思うんだけど、本当に心配してくれてた、とか。
これはありえない。ありえなさすぎ。
だってお互い嫌い合ってるし、心配なんて、さ。
なんて、自分で思った事に落ち込む。嬉しいのか、悲しいのかよくわからない。
そんな複雑な気分のまま俺はメールを打ち始める。なんていれようかなぁ。
俺は思考を巡らせながら、両手で一文字一文字、文字を入力する。
だからなのか、いつもよりたくさんの時間を使った。『昨日ずっと仕事してたから寝てたー(笑)俺が仕事とかすごいでしょー(@_@)褒めて(∀)今からご飯に食べまーす』
完成した文章を何度か見直す。俺らしく書けてるかな、って。今じゃ俺らしく書ける自信なんてない。
だって不自然に思われちゃうでしょ?フリでもいいから自然体でいたいし。
見直しが済んだところで俺は、送信を押した。
俺はいつからこんなに女々しくなったんだろう。慣れてないからかなあ。
こうやって、メールひとつでこんなに悩んでしまうものなのだろうか。わからない。
こんな体験初めてだし、戸惑うばかりだ。
俺はとりあえず部屋着から普段着に着替え、ケータイを持って一旦寝室を後にした。
「あら、起きたの?」
「…うん。よく寝れた」
そう言うと、波江さんは「へえ、良かったわね」と興味のなさそうに言葉を返し、そのまま俺はコーヒーを作りにキッチンに向かう。
一応コーヒーメーカーも兼ね備えているけど、寝起きだったり、落ち込んだりすると自分で煎れる事が多い。だから今日は自分で煎れた。
寝起きだっていうのもあるけど、何より頭を整理したかったから。
そして俺は頭を無にしてコーヒーを焚いてる。するとその時、ケータイが、鳴った。
「……あ」
着信音が室内に響く。なぜだかケータイを開くのを無意識にためらってしまう自分。
もちろんメールを見たいって気持ちもあるのに。怖い、っていう気持ちが確かに俺の中にある。
俺はその気持ちを逆らって、思い切ってケータイを開いた。
シズちゃんからじゃありませんように。
なんてね。
本当はシズちゃんからのメールを望んでる。
怖いのは、シズちゃんのメールじゃない。変わってしまうような俺自身が怖いのだ。
←→