MAIL[4] | ナノ






MAIL ‐4‐






午前7:30。もう辺りの景色は太陽の光りが目立ち、明るくなってきた。

昨日から寝ていない。だけど、さっきのメールのせいでその疲れは吹っ飛んでしまったようだ。

しばらくケータイの画面を意味なく見つめていると、玄関の方からバタンという扉の開く音が向こうから耳に入った。波江さんか。

「おはよう波江さん」
「ええ、おはよう」

波江さんは羽織っていたコートをハンガースタンドに掛け、出勤して早々仕事に取り掛かる。

「ああ、そういえば昨日の仕事、きちんと片付けたかしら?」
「うん、言われた通りちゃんとやったよ。溜め込んだ仕事全部ね!」

自慢げそう言うと、波江さんは目を見開き、黙り込む。俺は頭にハテナを浮かべながら「なに?」と問うと、

「…あなたでも普通に仕事するのね。安心したわ」

波江さんは、俺を見ながら、ふと見下すように鼻で笑った。仮にも上司なんだけど、そんな生暖かい目で見られたら誰だって悲しくなるさ。俺だってちゃんと仕事できるよ。怠け者だと思わないでほしい。

「失礼な……俺ちょっと仮眠してくる。あとよろしく」
「わかったわ」

こちらに視線を移さず、書類を確認しながら頷いて了承した。
大変だね、波江さんも。

俺はケータイを手に持って、寝室の方へと向かった。

ケータイが手元にないと落ち着かないのもあるけれど、いつメールが来るかわからないし、なんて。あんなに自分で期待してはだめだと脳内に言い聞かせたのに、俺の心の奥底では今だに期待している自分がいる。
自分自身に逆らってどうするんだろうか。

寝室に着いて間もなく、部屋着に着替える。その方が寝やすいし、寝る時は毎回この格好だから。パーカーに半ズボンっていう普段着からはあんまり想像できない格好だ。

俺はベッドに横たわれ。寝付きが悪い俺だけど、寝てなくて疲れが溜まっていたからか、ベッドに寝転んだ瞬間に睡魔に襲われた。

メールの件でも、もう3日くらい経ったのではないかというくらい時間が長く感じたし、その件だけでも思い出すだけでどっと疲れる。

メールを期待してしまったり、感情の揺れ動きが激しかったり、俺らしくない俺。
やはり冷静なのが一番だ。
きっと疲れから俺が狂ってしまったのだと思う。起きたらまた普段の俺に戻れるかな。

そう願い、俺はケータイを手に持ったまま、すぅっと深い眠りについた。







ピピピピピ――。

あらかじめ掛けておいた目覚ましで目を覚まし、重たい瞼をゆっくり開く。

「………んん、」

寝起きで重い体をしぶしぶと起こし、しつこく奏でる覚ましを止める。ズキズキと痛む頭。

時刻は午後11時35分。

もしかしたら途中で目が覚めるのではと思っていたのだが、そんな事はなく、予想以上に熟睡していた。そうとう疲れていたのか。

あ――そういえば、

「……ケータイ」

手に持っていない事に気付いた俺は、急いで毛布の下を探る。

きっと手に持ったケータイを知らぬうちに離してしまったんだろう。
ベッドの端に探していたケータイを発見した。

俺は早速ケータイを開く。
最初に画面表示されたのは“受信メール3件“という文字。

俺はそれを見て速攻にメールボックスを開いた。その中にシズちゃんのメールは存在しているのだろうか。1つもないって事もありえる。その結果。

1件はメルマガ。

だが、その他の2件は――シズちゃんだった。

「え………なんで」

俺は疑問と共に不安で頭がいっぱいになった。
なんでシズちゃんから2件も送られてきているのかと。

シズちゃんのメールの1件を開く。受信時刻は8:18。きっと眠った直後。
着信メロディーは鳴るはず……いやたぶんただたんに聞こえなかったんだ。

『食えよ絶対。絶対だぞ』

……シズちゃんは親か。心の中で鋭くつっこむ。

「…そういえば、ご飯食べてない」

寝る前にでも少し食べとけばよかったかな、なんて今さら思う。
だけど、ちょうどお昼だし後で食べればいいか、と勝手に開き直った。
怒られるかな。

だけど、問題は2件目。
なんのようで2件も送ってきたのだろう。
まさか文句のメールとか、今さらだけど怒鳴ってくるとかじゃないよね。
間違えて同じメールを送信してしまったとか、文字を入力しないまま送ってしまったとかもシズちゃんならありえる。
そう考えるとなんだか気が軽くなり、その勢いで俺は続けてシズちゃんからの2件目のメールを開く。
受信時刻は、10:21。
さっきのメールからほぼ2時間後。

「っ!」

メールを開いた途端、一瞬体が硬直した。そして次第に顔が熱くなってきて、どうにもできない感情に、思わず枕に顔を埋めた。

だってこれ、

『おい返信ねーけどどうかしたか』

なんて、心配してるようなものじゃん。








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