「田中さんはさ」
「そろそろ、"田中さん"って呼ぶのやめね?よそよそしいべ」
「だってそうしたらシズちゃ…あなたの部下と呼び方が共通になるじゃないか…嫌です」

ぷい、と顔を背け唇を尖らせる。その顔は拗ねた子供の表情そのものだ。
――以前まではそんな表情すら見せてくれなかったなあ。
知り合った当初、犬猿の仲である平和島静雄の上司である田中トムに、折原は警戒していた。まるで猫が威嚇しているようで、可笑しくもあった。トムが話し掛けても、無表情。精々小馬鹿にするような作り笑いしか見せなくて、撫でてやっても睨まれる。
――厄介な情報屋だな。
トムはそう思った。

だがトムはその情報屋に歩み寄り続けた。折原を見かけると自ら陽気に話しかけ、多少強引にアドレスを交換したこともあった。もともと世話焼きのせいか、危なっかしい折原が放っておけなかったのだ。

──俺にわざわざ構ってくるなんて相当な変人だね。

その時、初めて折原は本物の笑顔を見せた。綺麗で美しい笑顔で、トムは思わず見惚れてしまうほどのものだった。
その日から、折原はトムに次第に心を開いていった。
飯に誘えば折原は必ず選択肢は断るの一択だったのだが、予想外なことに折原からトムに誘いを持ち掛けてきたのだ。
その時トムは、やっと一歩近付けた。そう思った。

「ぇ──ねえ」
「ん?どした?」
「ねえ、ぼんやりしてどうしたわけ?何度呼び掛けても反応しないんだもん」
「はは、悪い悪い」
「もしかして風邪?それなら早く帰ったほうが、」
「いーや?お前さんのこと考えてた」
「っ……心配して損した」

耳を赤く染める折原に、トムは頭を撫でる。初めて触った時は手を振り払われたことだが、今ではこうして心地好さそうに目を細め、心を許してくれている。

トムはその事実が嬉しくなり、折原に聞こえないように、トムは「ありがとな」と呟いた。






20120205
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