「は……?デート?」
「ああ」

突然シズちゃんから切り出されたそれは、俺にとって信じられない話であった。
戸惑いより先に呆気に気を取られて、頭が理解するに時間が掛かり、シズちゃんから話掛けられてようやく意識が我に戻る。

「ノミ蟲?」
「あのさ、デートって意味わかってる?」
「わかってるに決まってんだろうが。そもそも付き合ってるんだからデートくらいして当たり前だろ」

シズちゃんはまるで何がおかしいのだというような、眉を潜めた顔でそう言い放つと、シズちゃんは勝手に日程を決め、強制デートとなった。
俺にとしては、──何を今更。
それが本音だった。嫌なわけではない。むしろ嬉しいし、好きな人から誘われたのだから当たり前だろう。
しかし付き合った当初、デートはしないと言ったのは君じゃないか──。

やがてデート当日。
考えてみれば、初デートだ。なんだかんだで緊張してしまい、待ち合わせしていた時間より早く着いてしまった。

「なかなか早いね」
「手前の方が早えじゃねえか。自信あったのによ」
「残念。俺もさっき来たばかりだから、もう少し早く来てれば良かったねぇ、ふふ」
「……次は絶対1秒も待たせねぇから覚悟しとけよ」

シズちゃんは悔しそうな顔をしながら、「行くぞ」俺の手をぐいっと引っ張る。振り替え際に見せた不意の笑みに心臓の音が大きく高鳴った。
──やばい、心臓。
胸に手をあてずとも、心拍数が高まっている事はすぐにわかった。今日一日、心臓を保てるだろうか。ドキドキしすぎて壊れたりしないだろうか。
──シズちゃんには振り回されてばかりだ。
さりげなく繋いでいた手を緩め、指を絡ませて繋ぎ直したシズちゃんに、顔が熱くなるのを感じながら、「ばか」と小さく呟いた。

それから、日が暮れるまでデートを楽しんだ。水族館、ショッピングやカフェ、ゲームセンター。どこも楽しかった。きっと、何より隣にシズちゃんが居たから。シズちゃんの新しい一面を多く知れた日でもあり、苦しくなるほどに好きになってしまった日でもある。
──自分の心臓を心配するよ。俺自身に自嘲した。

「なあ」

帰り道、シズちゃんが口を開く。既に空は暗くなり、街灯を頼りに道を進んで行く。

「どうしたの?」
「今まで」
「え、」
「デートできなくて──しようとしなくて悪かった」

シズちゃんの言葉は思いがけないもので、何故謝るのだろう。そう思った。

「デートしないっつったのは、俺がしたくなかったからじゃねぇ。臨也が俺と隣を歩くのは嫌だろうって勝手に決め付けてた」
「馬鹿だろ!嫌なわけない──きっと俺は君が思ってるより、ずっと君の事っ」
「ああ、だから今日それがわかってよかった。手前さ、俺が抱きしめた時すっげー心臓バクバクしてただろ」
「…!!!?」
「本当は最初いつも通りなんだと思ってた。けど手繋いだら微かに震えてて、すぐに手前も緊張してるってわかった。でも撫でたら嬉しそうに笑ってくれて、気付いたらただただ楽しんでた」

気付かれてた。そう思うと、無性に恥ずかしくなる。何故、シズちゃんはこんな恥ずかしい事を平気で言えるのだろうか。
でも──シズちゃんも楽しんでいてくれた。
正直、不安だったのだ。シズちゃんは思い出に残るような幸せだと思えるような一日になっただろうかと。一瞬でも時を忘れて楽しんでいてくれただろうかと。

「ああ、もうこんな時間だな」
「あ…そうだね」
「泊まってくよな?」
「!!」「帰ったらキスでもなんでもしてやるから、そんな物欲しそうな顔すんな」
「〜〜本当馬鹿…!!」











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20120117
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