そのあとドタチンは「用があるから」と去っていき、帰り際に「また連絡するな」と微笑んだ。
「優しいなあドタチン」
「そんなこというな折原、俺の方が優しいだろう?」
俺の顎をくいっと上げ、数センチ高い(悔しい)九十九屋を強制的に見上げさせられる。
「優しい?九十九屋が?ありえないだろう」
「わかってないな。なんなら、今からわからせてやってもいいんだぞ…?」
そういうと九十九屋は、俺の目の前までに至近距離までに顔を近づけ、不意に心臓が高鳴った。
吐息がかかるほどの距離に思わずぎゅっと目をつむる。
その時。
「おい!」
俺と九十九屋をシズちゃんが引きはがした。緊張の糸が切れ、ほっとすると同時に、シズちゃんの様子に気付く。
「なんで怒って、」
「抵抗ッしろよ……!」
「――」
「キスされそうだっただろ」
シズちゃんにぐいっと力強い手で腕を引っ張られる。衝動から一瞬足がよろけそうになるが、俺のふらついた体はシズちゃんの固い胸で支えられる。
気が付けば、背中に手を回されていて抱きしめらている形てなっていた。
胸に当たっているせいか、"どくん、どくん"と心臓の音がよく聞こえ、その途端無性に恥ずかしくなってしまう。
「あ、その……」
「謝るまで離さねえ」
「……ごめん。気をつけるから」
俺が素直に謝ると、シズちゃんは意外にもすぐに俺を離してくれた。
「約束しろよ」
シズちゃんはそう言うと、俺の髪をわしゃわしゃと撫でて、笑顔を見せてくれた。すこしだけ、ドキっとしたのはここだけの秘密。
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201222