愛され臨也 | ナノ

あの臨也が、風邪で寝込んでいる。そんな噂が、池袋中に広渡った。

まさかな。門田京平はまず第一に疑う。
いくら風邪といえ、きっとあいつなら1人でも大丈夫だろう。
──なんて。そう言い聞かせながらも、気になっている自分が居ることに気付いた門田は、やれやれとため息をつき、臨也の自宅へ向かった。


ピンポーン。
インターホンを押すと同時に、ドアの向こう側からチャイムの音が微かに聞こえてくる。

手土産を持った門田は少しばかり待ったが、そこから人が出てくる気配はなかった。
寝てるのだろうか。
門田はもしやと思いつつ、ドアノブに手を掛けた。

──開いてる…?
無用心にもカギがかかっていなく、門田はまず後で注意してやらなければと心に決めた。
だが、恐る恐るドアを開け、最初に目に飛び込んできたのはいくつかの見慣れない靴。
臨也のものにしてはサイズが大きいが、誰のものだろうか。
門田は悪いと思いながらも廊下を突き進み、寝てるであろうベッドルームの扉を開いた。

「臨也、悪いが上がらせてもらった………ぞ?」
「あ……どたちん…っ!」

臨也は門田の姿を確認すると同時に今にも泣きそうだった顔から、ぱあぁっと一瞬で安心したような明るい笑顔になり、思わず門田の心臓がドキッと高鳴る。

しかし、そこには臨也の他に、3人が男が既に臨也を囲っていた。

「なんでお前らがここにいるんだ………」

平和島静雄、岸谷新羅、平和島幽。居るはずのない、3人。

「門田君も臨也のお見舞いかい?」
「"も"ってことはお前らもなのか」

門田は臨也の方にちらりと目をやると、目をうつろにしながら顔を紅潮させ、どこかダルそうな印象をうけた。
やはり噂は本当だったらしい。
「どたちんが来てくれてよかった……」
「え」
「こいつらが……」

臨也はちらりと恨めしそうに3人を見遣る。何があったんだ。大体察しがつくけれど。

「何言ってんだ。汗かいてるだろうから着替えさせてやろうと思っただけだろ」
「そうですよ。下心なんてありませんでした」
「あ?そうなのか?」

幽は無表情でないと言い切るが、静雄はもう自ら下心があったと告げたのと同じだ。
そんな静雄に臨也はひぃひぃと唸りながら布団を盾に自分の身を守った。

「…ぅ…」
「あ、臨也。熱上がってきたんじゃない?寝てた方がいいよ」
「ん…」

新羅に言われ、臨也は渋々と布団に潜り込んだ。
その隙に門田は買ってきた冷却シートを臨也の額に貼ってやると、掠れた声で微笑みながら「ありがとう」と呟く。
なんだか視線が痛い門田だった。

「ていうか静雄はなんでここにいるの」

新羅が問う。
確かに門田も気になっていた。池袋ではしょっちゅう喧嘩ばかりしている2人だ。もしかしていつの間にかお見舞いにまで来る仲になっていたのだろうか。そこまで考えて門田は思考を閉ざす。いや、ない。ないと信じよう。

「なんだよ来たら悪いのかよ。ただコイツの弱ったところを眺めておこうと思っただけだ」
「うわ最低」

臨也は呆れた視線を静雄に向けるが、静雄のその言い草は単なる口実だと言うことを臨也はまだ知らない。
静雄は「うっせぇ」と悪態をつきながらも、1番最初に臨也の事務所へやってきて、水を飲ませたり、熱がありながらも仕事をしようとする臨也を無理矢理寝かせてやったりと、なんだかんだで世話を焼いていた。

「臨也、そろそろ寝なよ」
「…えー」
「えーじゃない。このままじゃいつまでたっても治らないよ?」
「……それはこまるかも……。一週間後には…四木さんと大事な約束してるし……」

ピキッ。
一瞬空気が凍りつく。"大事な"というキーワードがひっかかったのだろうか。それとも、自分以外の誰かと約束し、会うという独占欲が邪魔をしているのか。
それはそれぞれだった。

「と、とにかく臨也。新羅の言う通り寝ておいた方がいい」
「……ん」

熱が上がってきたのか意識がぼんやりとしてくる。
そのため臨也も自分のためにと素直に頷いた。
でも、3人共帰ってしまうのか。そう思うと何か心細くなり、まだ、一緒に居たいな。そんなわがままがつい頭に過ぎってしまうのだった。

「……大丈夫だよ。君が寝るまで側に居てあげるから」

まるで臨也の心の中を察したように新羅が言い、臨也の頭を撫でる。
門田は臨也をただ優しく見守る。
そんな安心感包まれながら、臨也は瞼を閉じた。

一方で静雄は、臨也が寝たのを確認した後、熱のある細い手を握り、臨也は無意識ながらにその手を握り返したのだった。











20111021
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