うわきしず | ナノ


I am seen.







シズちゃんの元を離れ、もう一ヶ月を過ぎる。俺は、ホテルを転々とした生活を送っていた。
俺はホテルのベッドに寝転がりながら考えた。

いずれも海の近くである。波の音が心地好く、心が落ち着く。

俺はホテルのふかふかなベッドに寝転がった。
シズちゃんとは、あれから連絡を絶っている。といっても、俺から一方的に着信拒否をしているだけだ。最近は新羅とドタチン以外メールも電話もしていないし、仕事もまともにしていない。

電話をするのが怖かった。
声を聞くのが怖かった。
まだ想っている気持ちが溢れそうだったか。

──この状態じゃ、いつまでも帰れないよね。

そもそも、俺には帰る場所なんてあるのだろうか。そんなマイナスな考えをしたところで思考をやめた。
自分を絶望に導くだけだ。

「海、行こうかな……」

ここから海まで、歩いて5分。気分転換に最適だ。シズちゃんのことを考えるといつもこうなる。俺もまだまだだなぁ、なんてね。
俺はさっそく体を起き上がらせ、体をふらつかせながら出掛けた。





海に近付くにつれて聞こえてくる波の音。
少し歩けば、海に着いた。昼間とは少し違い、なんだか幻想的な雰囲気を醸(かも)しだしている。俺はそのままざくざくと浜辺をいた。風がきもちいい。

──シズ、ちゃん。

シズちゃんとの思い出を思い出してみる。色々あったな。
シズちゃんが「一緒に住もう」って言ってくれたくれた時は嬉しくて泣いて、お互いの誕生日には指輪をプレゼントしあった。シズちゃんの新しい発見をしたときは"またシズちゃんのことが知れた"って幸せだった。

ふと涙が頬を伝う。
俺はまだ、まだね、シズちゃんのことが、

「……臨也」

聞き慣れた声──。ぎゅっと締め付けられる心臓を抑え、俺は、振り返った。

「……!」

この、金髪。
──シズ、ちゃん。シズちゃんだ。俺がずっと求めていたあの姿。でも今、この姿を見るのは、正直、つらい。

「………っなんで…!!」

動揺する俺をもとに、シズちゃんは焦ることなく俺のもとへ歩み寄る。
いやだよ、いや。まだ心の整理がついてない。いやだってば。今、別れ話をされたら、俺は──。

「今までごめん」
「……え、」

シズちゃんは、俺に向けて頭を下げた。俺はまさか謝られるとは思っていなくて、目を見開く。俺は恐れる気持ちを抑えながら恐る恐る「……どう意味?」と問い掛けた。

「俺、ずっとお前を──臨也を傷つけてた」
「……!」
「……新羅に聞いた。本当に悪いと思ってる」

もう俺がシズちゃんが浮気してるって気付いてること、シズちゃん知ってる。シズちゃんは頭を上げようとしない。

「な、んで」
「……」
「なんで謝るの」

俺の声は、自分でもわかるくらいに震えていた。別れるのなら、早く「別れたい」と言ってほしい。優しさからなのだろうが、ズタボロの心にそれはかなり染みた。
シズちゃんはここでやっと、ゆっくり頭を上げる。

「時間が掛かってすまなかった」
「……っ」
「けじめをつけるために、女と別れてきたんだ」
「…え………?」

シズちゃんは視線を真っ直ぐ俺に向けて言う。俺はその視線に堪えられなくなり、思わず顔を伏せた。

「どう、いう……意、味」
「臨也」

不意に名前を呼ばれ、俺の胸は確実に跳ね上がった。やっぱり、まだシズちゃんのことが好きなんだと思い知らされる。
しかし、そんな俺をもとに、シズちゃんは俺のもとへ一歩一歩近付く。その度に俺の体に緊張が走り、自然と体が強張った。

──どうしよう。

俺は覚悟でぎゅ、と目を閉じた。だがその緊張は、思いがけないシズちゃんの行動で、一気に崩されることになる。シズちゃんは俺を──自分の胸へと抱き寄せたのだ。

「へ、」
「ごめんな、ごめん。大事にしてやれてなかった。こんなに大切だったんだって、お前がいなくなってから気付いたんだ」
「っ……!」
「何度謝っても謝りきれねぇ。許してもらえるとも思ってない。でも、もしもう一度、チャンスくれるなら、もしもう一度、俺のことを信じてくれるなら、」
「し、ず」
「好きだって、愛してるって、言わせてくれ」
「──」

シズちゃんは俺を力強く抱きしめているのに、なぜか優しくて、安心して、堪えきれなかった涙が溢れ出た。ずっと求めていた体温。

「…っうそ」
「嘘なんかじゃない」
「っでも」
「高校の時、約束しただろ」
「……覚えて、たの?」
「あぁ。でも俺はそれを忘れて、約束を破っちまった。だから──ここでもう一度約束、させてくれ」
「…え…」
「一生、大事にする。もう、絶対に傷つけたりしない。今度こそ俺は──幸せにするって誓う」

波の音。潮風。
俺はシズちゃんの大きな背中に手をまわした。
本当に、これは夢ではないのだろうか。本当に、まだ俺はシズちゃんのことを好きでいていいのだろうか。

「…遅いよバカ……」

俺は腕を回す力強めてそう言うと、シズちゃんは俺に「ありがとう、愛してる」と囁いて、口づけた。



もう目を逸らしちゃやだよ。
つぎ俺を離したら許さないから。
ねぇ、だからもっと、
もっともっと、




I am seen
私のことを見て






ここまでご覧下さり感謝致します!リクエストされたご本人に限りお持ち帰り、リクエストOKです!リクエストありがとうございました。


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20110901
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