うわきしず | ナノ



──いっそのこと、どこかへ消えてしまおうか。
ぼんやりした頭のなかでふと考えた。



I am seen.




「ねぇ新羅」
「ん?」
「俺、しばらく町を出ようかと思うんだ」
「え」

新羅は目をまるくして、「本気かい?」と聞き返す。
それに対して俺は小声ながらに「うん」と認め、素直に頷いた。

「そう。静雄を困らせたいから、とかじゃないんだよね」
「うん。頭を整理させたいんだ」
「でもちゃんと戻っておいでね。いくら君でも心配する人はいるんだから」
「あは、なんかひどくない?」

俺はクスクスと笑った。
新羅もそれにつられるように笑うと、「ゆっくりしてきなよ」そう言い、俺の頭を撫でた。
──どこに行こう。
海があるところがいいかな。自然に囲まれるのもいいかもしれない。心が落ち着いて、冷静になれるまでどこかへ旅をする。期間は未定だ。
いつになっても頭を整理できないようなら、一ヶ月以上かかってしまうかもしれない。なんだか一種の失恋旅行のようだ。

「一応静雄に連絡しといたほうがいいんじゃない?」
「そうだね…」

一緒に住んでいるのだし、すぐ異変に気付いてしまうだろう。俺は新羅に言われた通り、ケータイを取り出し、震えた手でシズちゃんに電話をかけた。

『もしもし』
「ぁ…えと、シズちゃん」
『臨也か』
「あ、あのね、俺さ、しばらく家帰れないから」
『は?』
「…仕事でちょっと」
『?おう、わかった。体に気をつけろよ』
「──うん」

ピ。電源ボタンを押した。
声、震えてなかったよね。普段通りだったよね。
抑え切れなくなった一粒の涙が頬を伝う。あれ、さっき涙は全部出したはずなのに。どれだけ涙が出れば気が済むんだろう。

俺ね、シズちゃんの声が好きだったよ。シズちゃんの全てが好きだった。

でもいつかきっと──笑ってバイバイできるようになるよね。








20110820
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