すき | ナノ


充分なんです

・保護者な波江さん








いつからか俺は、池袋の町並みが好きだった。

「別に心配だからって着いてこなくてよかったのに」
「心配なんかしてないわ。誠二に会うついでよ」

となりで歩く波江さんは、顔を歪ませる。
それでも俺は、波江さんが居てくれて助かったと思う。なぜならば、相手の取引先が俺に執着があるらしく、セクハラまがいの行動に困っていたところだったのだ。
けれど今回は波江さんと一緒だったし、所々助け舟を出してくれたため、なんとか助かった。
いい部下をもったな。そのまま言葉にすると、「当たり前でしょう」と表情を崩さずに言われた。

「聞いてもいいかしら」
「何?」
「あなた自分のことをどう思ってる?」

突然の問いに、俺は思わず目を見開く。波江さんは道の先を真っ直ぐ見つめ、こちらを向かない。「どう思ってる……うーん。俺も馬鹿じゃないから、性格悪くて歪んでることぐらいわかってるよ。あとはどうも思ってないかな」

自分の性格が悪いのは百も承知だ。他に思うことといえば、結構俺ってうざいよなあ、くらい。
(しかしそれを波江さんに言えば「自覚してたのね」と言われること間違いなしだったので、あえて口をつぐんだ)

「……そう。思った通りの答えね」

波江さんは呆れたような顔をし、大きくため息を吐いた。一体なんだったのだろうか。俺は疑問のままに首を傾げた。

「それにしてもあなた、よく好きで池袋に来るわね。あなたのことをよく思わない人の方が多いだろうに」
「…否定はしない」
「ああ、マゾなのね」
「否定はし……ってちがうし!」

思いの外動揺してしまっている自分に驚きながらも、そこは深読みせずに、すぐに考えを消した。

「じゃあ私は誠二のとこに行くわ。せいぜい気をつけて帰ってちょうだい」
「うん、波江さんも今日はこのまま帰ってもいいよ。またね」

俺は手を振り、波江さんを見送る。
すると、あっという間に波江さんは視界の中から消えてしまった。本当に弟さんのこと好きだよね。

「………あ、ねこだ」

人通りの少ない道に差し掛かったところで、真っ黒の猫が目に入った。瞳が綺麗で、思わず見入ってしまいそうになる。

「おいで」

近付いたらすぐ逃げてしまいそうだ。そんなことを思いながらも、思い切って呼んでみる。
すると案の定、ねこが俺の近くまで寄ってきて、なんだか嬉しくなった。
俺はねこ目線になるよう屈(かが)み、「こんにちは」と挨拶をすると、黒いねこは返事をするかのように「みゃあ」と鳴いた。

「君も一人ぼっちかい?」

黒いねこは、俺の前にちょこんと座る。警戒はしていないみたいだ。
俺はそろりと手を伸ばし、恐る恐る撫でてみる。
すると、ねこはそれを受け入れてくれて、気持ち良さそうに目を細めてくれた。

「俺のこと、本当に好きになってくれる人っているのかなあ」

撫でながら、独り言のように呟いてみる。ねこは聞いているかいないのか、ごろごろと喉を鳴らしている。

「ねぇ、良いことってなんだと思う?」

一言も話さないねこに、あえて話してみる。このねこと居ると、なぜか前から知っているかのように落ち着くのだ。親近感に近い、そんな感情。

「俺にもできるのかな?俺って性格悪いけどさ、一応そういう事考えてるんだ。でもそんなことしたってきっとこの町も人間も、俺のこと許してくれないね」

ねこは俺に擦り寄り、時折手を舐めてくれた。慰めてくれているのかな、なんて勝手に解釈してみる。
許してほしいとは思ってない。
けれど、ただ。

「でもね、シズちゃんはそういう人助けみたいなの当たり前のようにやっちゃうんだ。嫌いな人でも。あ、俺は除いてね、ありえないし。俺には真似出来ないなぁ。だからね……そういうところだけは………まあ、すごいと思う、けど」

シズちゃんの顔を思い浮かべて、やめた。
なんだか悔しいから。
ただすこーし褒めただけであって、認めたわけではない。

どことなくモヤモヤしていると、黒のねこが「みゃ」と短く鳴き声を上げ、反射的に意識が我に戻る。

「あ、俺が言ったこと全部秘密だからね?絶対にこんなこと思ってるなんて言っちゃだめだよ。無敵で素敵な情報屋さんな俺のイメージが崩れちゃうから」

ごろん、と無防備にお腹を見せるねこに、俺はクスリと笑った。癒される。
ねこ飼おうかな。
いや、波江さんに怒られるからやめておこう。

「君は黙って聞いてくれるから好きだよ。かわいいねえ。へへ、お礼に缶詰買ってあげようか?お腹空いてる?」
「みゃー」

現金なやつだ。ねこは俺の上にのしかかり、思わず俺は倒れ込む。
俺もコイツみたいに甘えられたらいいのに。
そんなくだらないことを考えながら、俺は黒いねこの思うがままにされていた。

しかし、

「……なんだありゃ」

陰でシズちゃん(+a)が見ていたことを知らず、俺は呑気にねこと戯れていたのであった。











池袋組があまり目立てなくてすみません……!
成明さんありがとうございました!リテイク・お持ち帰りはリクエストされた本人に限り可能です!
20110718
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