‖オトすのはだあれ
「…なあノミ蟲、"九十九屋"って誰だよ」
突然、シズちゃんの口から出た名前に、俺は思わず片手に持っているナイフを落としそうなった。
──なんであいつのことを知っている?
驚きと同時に沸き上がる疑問に、俺は頭にハテナを浮かべた。
「えっ、と……なんでそんなことを聞くの?」
「今日、そいつから手紙が届いた。今日ここに来て手前をオトすって」
「落とす?」
反射で地面を見るが、落ち着いて考えてみたらそれはありえない。
その反射的行動を目撃シズちゃんがぷ、と吹き出したので、とりあえず足を蹴っといた。
俺は更に思考を巡らせる。
「でもさ、その手紙が何でシズちゃんちに送られてくるの?」
「いや──それは」
もしかして思い当たりがあるのだろうか。シズちゃん目を逸らし、言葉を詰まらせた。
何か隠してる──?
俺はその疑惑を指摘しようと口を開いたその時──。
「やあ折原」
「?!」
声がした方向へ振り向く。
──この呼び方、まさか、もしかして。
「九十九、屋?」
「ああ」
男は笑って頷く。
そこにいたのは、奇妙な男の姿。
顔を仮面のようなもので隠し、奇抜といっていいものか、イマイチ言葉にできない格好をしている。
そんな時シズちゃんを横目で盗み見ると、"コイツが?"とも言いたげな表情をしていて、眉間にしわを寄せていた。
「………本当に本物?代理とかじゃないよね?音声くっつけてるだけだったりして」
「相変わらず疑い深いな折原は」
そりゃ疑うでしょ。盗聴器を仕掛けたりするやつなのだ。九十九屋ならそんなことお手の物だろう。
──つまり、悔しいけど、この九十九屋は俺よりも一枚上手ということである。
シズちゃんと同じく考えが読めない。
…でも、まさかこんな簡単に俺の前に現れるなんて思ってなかったけど。
「アンタ俺に手紙送ったろ。コイツをおとすとか、なんとか」
「そのためにここへ来たんだからな」
「まさか知ってんのかよ、俺が………」
「まあな」
するとシズちゃんは思い切りばつの悪そうな顔をし、その後わざとらしく舌打ちした。
やっぱりシズちゃんには秘密があるようだ。ということは俺の勘が当たってたってことだよね。たぶん。なにそれすごい。
知ったこっちゃないけど。
「それよりさ、九十九屋は俺の何をおとしにきた?まさか命とか言わないよね?そしたらお断りしちゃうけど」
「いや。俺がおとしたいのは折原のハートだ」
「寒っ、なにそれ」
「…そうはっきり言われたら傷付くぞ」
率直で素直な感想を言ったつもりだったのだが、そう言う九十九屋の言い草が本当に落ち込んでいる様で、なんだかじわじわと罪悪感が湧いてきた。
それをフォローするために俺は、「別に気持ち悪いとは言ってない」と言うと、それだけで九十九屋は機嫌が治ったようで、「そうか」と満足そうに相槌を打った。
もしかしてはめられ…。
「……ンだよ」
俺が九十九屋に気を取られているうちに、シズちゃんがふて腐れてしまったようだ。
九十九屋の機嫌が治ったかと思えば次はシズちゃんかよ!!俺は一瞬双子を育児している母親の気分になった気がした。
「折原。平和島静雄のことは別に放っておいても構わないんじゃないか?」
「え」
「おい手前!」
九十九屋を殴る一歩手前でシズちゃんは身を引く。
九十九屋は殴られそうになってもびくともせず、あくまで平静だった。
きっと俺と九十九屋が戦っても負けるんだろうな。そんなことを、無意識ながら頭で考えていた。
「折原」
「?」
「飲み物を買ってこい。3人分な」
「……パシリかよ」
「手前の場合奴隷だろ?」
ぷぷ、とけなすように笑うシズちゃんの足を思い切り蹴る。本日2度目だ。
──仕方ない。
俺は諦めるようにふぅ、とため息を吐き、駆け足でその場を離れた。
残された2人は、臨也の姿が見えなくなるまで一言も言葉を発せず、ただお互いに探り合うような視線で睨み合った。
「おい九十九屋」
そんな時、沈黙を破り、先に口を開いたのは静雄からだった。痺れを切らしたのか、はたまた臨也に聞かれまいとタイミングを計ったのか。
それを九十九屋は待っていたかのような笑みを向け、「なんだ」との言葉を返した。
「やっぱ俺、ノミ蟲──臨也のこと好きだ」
「へえ」
「場合によっちゃあコイツのこと、諦めようと思ってた。けどよ……ンな怪しいやつに臨也を渡せるわけないだろ。絶対に臨也を俺もんにする」
「そうか。だが忘れないでほしい。俺は折原のことを幸せに出来るのは平和島静雄ではないと思っている。それに、折原の事は俺の方がよく知っているからな」
「これから知るんだっつの悪いか」
臨也は自分のいない間に2人がこんな話をしているなんてつゆ知らず、臨也は呑気に自販機とにらめっこをしていた。
2人の飲みそうなものを考えて。
遅くなってしまいましたが、キリ番リクエスト
(九十九→臨←静)ありがとうございました!
リテイク・お持ち帰りはリクエストされたご本人に限りOKです!
20110712