渡さねぇよ!!
「あの」
シズちゃんたちがくだらない話で盛り上がっているなか、どこからか声がし、俺はその方向に振り返る。
「……あれ、帝人く、」
「静かに」
そこに居たのは帝人くん。
なぜこの場所に居るのだろうか。
2人、九十九屋とシズちゃんが話しているすきに、帝人くんが声を抑えて俺に声をかけてきたのだ。
俺は小首を傾げて帝人くんを見ていると、帝人くんがきょろきょろと回りを見回し、周りを警戒しながら小声でこう言い放った。
「臨也さん…今から抜け出しませんか?」
「えっ?」
思わず情けない声を上げてしまい、慌てて口を両手で覆う。
幸いにも2人は気付いていないようだが、どういうことなのかいまいちわからない俺は、小首を傾げる。
一瞬冗談かと考えたが、帝人くんの表情を見ると、いたって本気ですって顔だった。うーん…。
「どうですか。僕と一緒にラブラ……じゃなかった。僕と一緒に居た方が安心ですよ」
「そうかなあ」
「そうです」「本当に?」
「はい」
帝人くんはうんうん頷く。ちら、と九十九屋とシズちゃんをのぞき見ると、今だに変(態)な話してるし、そろそろ俺も逃げてしまいたい。
ここは帝人くんの案に乗ってしまおうか。
そう思い、俺は意をけして口を開いた。
「わかっ、」
「そうはさせねぇよ?」
シズちゃんの低い声が俺の背筋を凍らせる。心なしか九十九屋からも冷たい視線を向けられてる気もしないでもない。ひぃ……。
「チッ」
なぜか帝人くんが舌打ちをする。
さっきの人懐っこい笑顔を見せていた帝人くんは家出してしまったようだ。
なになになに?俺が除外されてるの?意味がわからない。
「さっきあなた臨也さん口説いていたでしょう」
えええええ口説いた!?
九十九屋のあれが!?ますますいみがわからないよ!!
混乱しながらも心の中で指摘をするが、今それを口にできる雰囲気ではない。俺は黙って3人の話を聞く。
「見ていたのか」
「はい!それでこのままじゃいけないと思って!このままあなたたちに盗られるわけにはいきません!」
「手前なァ………」
シズちゃんは帝人くんをぎらりと睨む。
ていうか何の話してるの?もしかして俺、置いてかれてるの?
でも、九十九屋のことだから、本当は帝人くんが被害現場を見ていたことを知っていたのだろう。
でもそうなると、パンツの色を当てられた時も居たってことで………これ以上は考えないでおく。鬱になるから。
「とりあえず、渡しませんから!ねっ臨也さん!今度デートしましょう!」
「えっ?あ、うん」
急に話が回ってきたため、俺は反射的に了承すると、確実にシズちゃんは舌打ちした。
なんなのだろう。
←|→
続きます。
20110630