2つの引力 のコピー | ナノ





2つの引力






今現在、俺はナンパされている真っ最中だ。
しかもそれが同性である男であり、それも大変しつこく、不運だ。心からそう思った。

「ねぇ早くお茶しようよ。近くにいい店知ってるからさ」
「俺今用あるから」

嘘。本当はぶらぶらしていただけ。
そんな中、道中を歩いていて、急に声を掛けられたかと思えばこれだ。ぶっちゃけもう帰りたい。
ぶっちゃけなくてもさっさと帰りたい。

「さっき俺ちゃんと男だっていったよね」
「そんなの気にしないし?綺麗なヒトなら俺大歓迎。それに俺、意外に一途なんだよね」

どう、魅力感じた?そう言って、俺に顔を近づける。
こいつ、顔だけはやけに整ってるな。
つまり世間でいうイケメンの類に入るはずなのに、この性格が残念すぎる。もったいない。
顔をじろじろ見ていたら、何かを勘違いしたのか顔をにやつかせる男に苛つき、男を押しのける。

うざいんだけど。
そのまま言葉にすると、男はまた勘違いしたのか俺の髪を撫でながら「照れ隠し?」とプラス思考に受け取る。なんでそう自分の都合のいいように受け取るんだこいつ。

「ねぇそろそろ名前教えてよ」
「やだ」
「あ、それとも俺から名乗れってこと?」
「あーもうそれでいいよ」

俺が投げやりにそう答えると、男はそっかそっかと納得したように頷く。

「俺ね、デリックっていうの!デリ雄でも可!好きに呼んで?」
「ふーん…」
「君は?」
「……折原臨也」

ぼそ、と小声ながらにも素直に名前を言う。
するとデリックは一瞬で満面の笑みに表情を変え、嬉しそうに「臨也かあ」と、さっそく呼び捨てにしやがった。

「どうでもいいけどさ、君のこと、さっきから女の子が呼んでるよ」
「えっマジ。そいえばデートの予定たててたんだった。でも安心して!断ってくるからさ」
「ばっかじゃないの」

俺がクス、と笑うと、デリックは一瞬目を見開いてから、同じように目を細めて笑う。

「じゃ俺行くね」
「えっもう?せめて連絡先……」
「次、会えたら教えてあげる」

いたずらにそう言うと、デリックは後々理解するように「運命ってことね」とはにかんで見せる。
デリックは女の子のほうへ戻り、俺もその場を離れようとすると、ふと興味本位でデリックのいる所を振り向くと、手を合わせて謝っているデリックと、残念がっている女の子たちの様子がそこにあった。

──ふうん。

どうせ俺と別れたあと、すぐにナンパしに行って、女の子とのデートも引き受けるんじゃないかっと思ってた。
けど、違ったのかな。そんなデリックの姿に、少しキュンときたのはここだけの秘密。

*

数日後。俺は再び池袋に用事ができた。
まさか、ね。
ちょっとした期待。そんな感情を抱きながら、俺は家から出た。

池袋へ到着し、まずはさりげなく辺りを見回す。しかし、そう簡単に遭遇するはずもなく、俺は用を済ましに目的の場所へ向かった。

「……やっぱ、いないか」

用が済み、駅へと足を運ぶ途中、思わず独り言が漏れる。
やはり道行くなかにはあの派手な姿は見当たらなかった。

──運命。

そのとき、無意識にがっかりしている自分に気付き、思わず苦笑いする。
いつの間にか会えるって信じてたのかもしれない。
意外に俺、押しに弱いのかなあ。
知っても全く嬉しくない新たな自分に、再び苦笑する。

「そこのお嬢さん、よければお茶しません?」

またか――。
さすがにもう懲り懲りなのに。
しかし、そんな苛つきと共にしぶしぶと声のした方へ振り向くとそこには、見覚えのある顔。そして、この前見たスーツとはまた違うスーツを身にまとうデリックの姿だった。
俺は大きく目をまるくする。

「え、なんで…」
「実は電車から臨也が降りて来た時からここにきたの知ってた」
「…じゃあその時話しかければよかったじゃん」

そうすれば探しながら歩き回る手間も省けたってのに。
内心そんな文句を吐き出しながら、俺はデリックに問う。

「いやー好きな人と会うから気合い入っちゃってさ!この服買ってたら、こんな時間に」

あははっと照れながらも呑気に笑うデリックのその笑顔に、ドキ、と微かに心臓が打たれる。
いきなり現れて、なんなんだこいつ。

「でも前着てたのとあんまり変わらない」
「えーひどいっ」
「でも……」
「?」
「似合ってんじゃない?」

俺は恥ずかしいながらにも微笑んでみせると、シンプルに一言、「嬉しい」と言って俺の髪を掻き回した。

「でもやっぱり、俺と臨也を引き寄せたのは運命じゃないと思うんだ」
「じゃあなんだと思うの?」
「俺と臨也の気持ちだよきっと!」
「バーカ」

俺は否定も肯定もせず、悪態をつく。
だって心の内は、一理あるかもしれない、なんて思っていたから。
しかしデリックは、それを見透かしたように、「バカでいいよ」と言って俺のことを優しく抱きしめた。








素敵企画、様に提出させていただきました。
派生×臨也は前々から書きたいと思っていたので、このような機会を頂けて大変光栄です。
デリ臨いいよデリ臨。
当サイト「そんなの、知ってる」はこちらです。

20110530
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