うそとこい | ナノ









人間って恐い。
自分のため、他人のために嘘をつき、無自覚で嘘をついてしまう事だってあるのだ。
今だって、ほら。嘘をつける状況にあるのだ。

「はい」

俺はニコニコとはにかみながらシズちゃんにお茶を差し出す。シズちゃんも「サンキュ」なんてお礼を言い、差し出したお茶をひとくち口に運ぶと、それを机に置く。俺もそれを確認すると、シズちゃんから少し離れたところに腰をおろした。
実のところ言ってしまうと、シズちゃんとは、恋人同士である。
付き合って約5か月はたったと思う。曖昧だけどそれくらい。しかしながら、シズちゃんがいきなり俺の家にやってきたのはなぜだろう。特に約束してたワケじゃないし、不機嫌な様子も伺えない事から俺が何かを仕出かしたワケではないらしい。

「手前今なんで突然訪ねてきたんだろうとか思ってるだろ」
「!?な、…」
「図星」

シズちゃんは得意げな笑みを見せる。俺はなんだか悔しくなり、「別に」と不貞腐れたような態度をとると、シズちゃんは「はいはい、そーかよ」と、馬鹿にするように相槌を打った。たしかに当たってるけど。

「で、なんで来たの」

俺が流れに添いながらも、一番ききたかった事をさりげなく問う。俺はちらちらとシズちゃんの様子を気にしていると、不意にシズちゃんは「ぷ」との笑い声を零した。なにがおもしろかったのかわからないが、聞いたら負けだと思い、口にはしなかった。

「俺は、」
「…」
「手前に会いたかったから来たんだ」
「…は?」

目線をシズちゃんに向ける。その目は俺を暖かく見守るような、そしてどこか愛しそうな瞳をしていた。俺はその目に耐えられなくなって、思わずその視線から目をそらした。
少し沈黙が流れたところで俺は、疑問交じりに「何言ってんの」と言葉を返す。

「悪いかよ」
「…そんな事」

ああほら、また負けそうになる。俺はシズちゃんの事が好き、大好き。それでも、信じる事ができない。

言い直す、信じてはいけないのだ。こんな俺でも信じたことはある。でも、信じて良かった事なんた事なんてなかった。
いつからだろうか。無意識に裏切られる事を前提に考えてい俺がいて、何を言われても嘘に聞こえて。それでも普通に生きていけたし、軽く受け流せたのに。

なのにシズちゃんと出会い、付き合うようになってからというものの、それがいきなりそれが難しくなった。ひとつひとつの言葉に体が反応して、そのたびに自己嫌悪に陥(おちい)った。冗談のように受け止めなければ、傷つくのは俺だ。

顔を俯き、渋い顔をする俺に気付いたシズちゃんは、俺に体を近付け、優しく微笑みながら「どうしたんだよ」と問い掛けた。

「ん……」

俺はシズちゃんに体を預けると、シズちゃんはそれを受け入れるように、俺の髪ををさらさらと撫でる。

「こんなに好きだと思えたのは臨也だけだ」
「……」
「心配すんな。……なあ、俺のこと信じろよ」

そして、シズちゃんは俺に唇を落とす。
その時なぜだか次第に目尻が熱くなってきて、気付いた時には既に一滴の涙が頬に伝っていた。
好きだって気持ちが溢れそうになったのか、それとも信じることができない罪悪感からなのか、今もまだわからないけど。







いからこそ
怖いんだ

("俺だけ"なんて嘘でしょう?)








信じるのが怖い臨也さんと信じてほしい静雄さんでした。
お題提供「空想アリア」様
(http://bloommine.3.tool.ms/)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -