天然上目遣いは勘弁
とある場所からの帰り、調度俺は階段と階段に挟まれる水平の場所に立ち、辺りを見回していた。
なぜ立ち止まっているかって?なぜなら、今さっき…いや数秒前に俺の名前を呼ぶ声が聞こえたからだ。
耳に留まったのは微かな音量だったため、空耳とも受け取れる。風も強いし、錯覚したのかもしれないし。もしかしたら俺を呼んだのではなく、俺と名前が似ている人、っていう考えもありえる。
それに、どこかで聞いた事のあるような声だったような気もしないでもない。
……それはさすがに気のせいだろうか。
そんな半信半疑の状態で声のした階段下を見下ろすと、そこには俺に向かってを手を横に振る臨也さんの姿があった。しかもピョンピョン跳ねてる。
あの人24歳だろ。
……なんてそんなの今更言っても仕方ないな。
それにしても、あの声の正体は臨也さんだったとは意外だった。
俺は少し離れた臨也さんの姿を確認すると、臨也さんに近付くため階段を後1段で地面に着くというところまで降りた。臨也さんは今手前居る状態。
「いつからそこに」
「ついさっきだよ」
臨也さんは柔らかな笑みを見せながら、「正臣くんがよそ見してる時、あっちから」と来た方向に指を指しながら、面白げに言った。
この人の笑いのツボはよくわからないから困る。
「正臣くんはどこかの帰り?」
「まあそんなとこです」
「俺もね、今家に向かってるとこ」
「あなたの事なんて聞いてませんけど」
「冷たいな、正臣くんってば」
「承知済みですよ」
臨也さんは特に怒ったり気にする様子もなく「えーなにそれ」と、再び笑顔を見せた。どうせ愛想笑いだろうけど、たまに見せる幼げな笑みは嫌いじゃない。
それにしても臨也さんの後ろに咲き誇る桜の木。淡いピンク色がとても綺麗で、春を漂わせている。
臨也さんは俺の方を向いていて気付いてないと思うけど、こっちから見て、桜の木と臨也さんはすごく見合っているように思えた。
悔しいけどそんな事を素で思ってしまった自分が確かに存在し、そんな俺自身に思わず呆れる。
釣り合っているというべきだろうか。全く違和感を感じず、まるで絵画でも見ているようで思わず見とれてしまうくらい。さすが眉目秀麗。そう感心してしまうほど。
「ところで、正臣くん」
「なんすか」
「何で階段に一段登って地面に降りないの?見下ろされるの嫌いなんだけど」
ああこれが気に食わないのか。
どうやら臨也さんは、階段ひとつでも俺が上に居る事が許せないらしい。
直接言葉には出していないが、降りてほしいという事は雰囲気から察する事が出来た。
普段とは違う、うずうずと落ち着かなさそうな臨也さんに、笑いが吹き出しそうになるが、この場はぐっと堪えた。
そんなに見下ろされるのが嫌いなのか。
「…聞いてる?」
「はい。尚更降りたくなくなってきました」
「……」
臨也さんはまだ納得出来ないような顔をしながら、「沙紀ちゃんに意地悪されたって言うからね」と脅し(なのだろうか)を掛けさせられた。
子供かよ。心のうちでツッコむ。
「でもさ、」
「?」
「正臣くんもいつかは俺を見下ろすようになるのかもしれないね」
そう言うと臨也さんは何もないほうを見つめ、ぽけーと脱力するように黙り込んだ。
どうやら俺の背が高くなった想像しらしく、急に渋い顔を映し出して「でも俺が見上げるようになったら悔しいから、今のままでいいよ」と呟くように言葉を付け加えた。その目は本気なのか冗談かわからないけど、どうしても見下ろされたくないという事は確からしい。
だけどごめんなさい臨也さん。臨也さんのその言葉で決意しました。
絶対に背を伸ばそうと。
だって、そしたらわざわざ階段なんか昇らなくても、あなたのその上目遣いが見ることができるから。
そうでしょう?臨也さん。
素敵企画:Love is All様に提出させていただきました。
正臨大好きです。
臨也さんは愛されてなんぼだと信じて疑わない。
当サイト「そんなの、知ってる」はこちらです。
20110410