MAIL[11] | ナノ





AIL[11]






まるでシズちゃんが近くに居るような温もりを感じて、気付いた時にはもうすでに涙はぼろぼろと零れていた。
声を漏らさず、静かに泣いた。

「っ……うー」

仕事で失敗してしまった悲しみと恐怖で泣いてるんじゃない。
正直に言うと、シズちゃんの優しさに涙腺がやられてしまったからである。シズちゃんに慕う人はこういうところに惹かれるのではないだろうか。なんとなくわかった気がする。

それと同時に、1人じゃないというような安心感も沸き上がった。まるで抱きしめてくれているような、包まれているような感覚に陥り、温もりを感じたのだ。

そんな理由もあり、シズちゃんからもらったこのメールが本当に心から嬉しく思った。
これは嘘じゃなくて、本当に嬉しくて嬉しくて嬉しくて、会いたくなった。俺はシズちゃん相手になにを思ってるのだろうか。

「返事、しなきゃ」

メールの事を思い出し、俺は新規メール画面を開く。涙で崩れた顔で、鼻声のままメールをぽちぽちと1文字ずつ打ち始めた。
何を入力しよう。ただ"ありがとう"だけでいいかな。
いや、まずは謝った方がいい?"変なメール送ってごめん"とか?それじゃなんか固いよな。
もらった方も困るかもしれないし。
もっと俺らしく"バーカ!嘘だよ"?でもな、それじゃシズちゃんからの気遣いを無駄にしちゃうよね。

―――。

何が因縁なのか、急に脳裏にぽんと思い浮かんだとある思考。
それは、俺、もしかしたら、シズちゃんの事、好きかもしれない。

という今まで考えた事のないような、自身も驚くような内容だった。

絶対絶対絶対に有り得ない考えに、思わず文字を打つ作業が止まり、俺は慌ててその考えをうち消し去ろうとする。

脳裏に別人が住んでいるのではないかというくらいぶっ飛んだ思考。俺らしくない俺らしくない俺らしくない俺らしくない。

もしも本当にその事を心の奥底で考えていた事だとしたらどうするか。
そんな事を想像しただけで頭を打ち付けたいくらいの衝動が俺を襲い、思わず頭を抱えた。

いやいやいや。ない!それはないだろ俺!やめろ!意味のない事なのに、脳内で必死それを全力否定する。
だけど、俺の思う"好き"はどっちの"好き"なのだろうか?

もしも――仮に好きだったとしたら単純に友好としてなのか、それとも、恋愛としてなのか。
自分で"恋愛"とか思ったくせに、ボッと湯気が吹き上がるような勢いで顔が熱くなった。こんな事でいちいち照れてしまう俺が憎い。
なんでこう、シズちゃんが原因で思い悩まなきゃならないんだ!なんか悔しい!

あと、さっきから気になっていた事なのだが、悲しんだり、泣いたり、嬉しくなったり、怒ったり。感情の変化が激しくなってる気がしてならない。それに、この様子を他人が見たらただの変質者だ。俺自身の変化は自分がよく知っていた。

「……好き、なのかな」

好きと嫌いって、難しい。好きってなんだっけ。嫌いってなんだっけ。たまにその感情すら忘れる。

俺は、どっちなんだろう。

俺はメールを打つ作業を再開し、再び指を滑らせた。
間違って変なメールを送らないよう心掛けながら。

『あんなメール送ってごめんね。気にしないでw今度から気をつけまっす!


あと、ありがと』

それだけ入力すると俺は、シズちゃん宛てにそのメールを送信した。
俺の思ってる事が伝わりませんように。なんて願い。





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