MAIL‐10‐
失敗なんて俺らしくないよ、俺。
やっと脳が回転してきて、ちゃんとした思考を取り戻した時にはもう既に送信ボタンを指でぽち、と押した瞬間だった。
「あ………」
なんでよく考えて文章を書かなかったんだろうか。
仕事の事で頭が真っ白になってしまったとはいえ、軽率な行動だったかもしれない。
その事実に今更になって後悔が生まれ、頭を抱えながら唸り声を上げた。
とりあえずもう一度メールを見直して見る事から始めよう。
たとえ恥ずかしい事を書いてしまっていても、後でシズちゃんに訂正のメールを送ればいいんだから!
なんて開き直りながら、俺はいざとなって決心し、送信ボックスを開く。
やはりシズちゃんへ送ったメールはそのボックスの中に存在し、そのままためらわずにそのメールの中身を開いた。
その中に表示されてあった文章。
それは、
『シズちゃんシズちゃんシズちゃん』
という名前が3つ並べられていて、他には何も記していないほとんど真っ白なメール。
これ、だけ?
「なんだ……」
変な事書いてなくてよかった。そんな安心感に包まれ、肩の力はすっと抜ける。
でもこのメールの意味ってなんだろ。自分で送ったんだけど、恥ずかしながら何を考えて送ったとかは全くと言っていいほど覚えていない。
あ、シズちゃんにメールしなきゃ、変なメール送ってごめんって。シズちゃん側からも迷惑かもしれないし。
そう判断した俺は、新規メールを作成しようと一旦送信ボックスを閉じようと電源ボタンに指を滑らせたその時。
手に持っていたケータイがバイブと共に鳴る。
この着信音は、シズちゃん用に設定していた音だと気付くと、まず先に抱いたのは不信感。
だっていつもはこんな早くに返信くれないし、最高記録で返信が来たのは20分くらいだし。
早さでは過去一番だ。
……別に無視してくれても問題ないし、むしろその方が良かったんだけど。
「不愉快だ」みたいなメール来てたりする?それとも「迷惑だからもうメールしてくんな」とか。
…なんか嫌だ。
だが、そんな事ばかり考えてしまってはキリがない。
俺は渋々とその受信ボックスを開き、メールの中身を確認した。『何があったかは知らねぇが、あんま溜め込むなよ。とりあえず泣いとけ』
シズちゃんから送られてきたメールはあまりにも優しいもので、何かにふんわりと包まれるるような気分になり、目頭がいっきにじわじわと熱くなった。
不意にそんな言葉を掛けられたら、さすがに俺でもやばい。
どうしてくれるの?
どうしよう、泣きそうだ。
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