明かりを | ナノ






かりを燈す瞳





付き合い始めてから、早2週間。
シズちゃんの部屋に居ても、若干落ち着いけるようにはなった。だが、香りだけは今も、体に馴染まない。
そして今現在もシズちゃんの部屋に居る。最近はほぼこの部屋におじゃまさせてもらう事が多くなった。
シズちゃんと隣同士に座る距離は、何も言われなくても、最初の頃よりは大分近付いて座れるようになり、少しは仲良くなれたかなぁ。なんて呑気に思っていた。

のに。

「………なんでこんなに顔、近いのかな?」

今、ベッドに寄り掛かる俺の頭の横に手をつき、俺の上に覆いかぶさるようにシズちゃんが居る。おまけにそのシズちゃんは俺にぐっと顔を近付け、あと唇と唇が触れるまであと何センチという、全くもって有り得ない状況なのだ。これは夢かと頬を抓れば、変わらぬ痛みを感じ、夢じゃないという事を思い知らされる。

「何って言われてもなァ……」
「ッだーかーら!近いっつーの!離れろバカ!」

ぐいぐいと押して退けようとするが、シズちゃんの力では抵抗しても無駄。力ずくで押してやってもびくともしなく、泣く泣く諦めるしか他ない状況に陥(おちい)った。

「……どいて。何がしたいの?」
「付き合って2週間経ってんのによぉ、俺たちまだ一度もキスした事ねぇだろ?」
「え」
「だからキスしよう」

そういえば思い返すと、まだ俺たち一度も恋人らしい事してないかも。手を繋いだり、キスしたり、デート?したり。そんな恋人同士の特権というものはまだ未経験。でも俺にとっては互いに寄り添うだけで十分恋人っぽいと思うんだけど、どうやらシズちゃんは違うらしい。シズちゃんは俺とキス、したいのかな。
って待て待て待て。俺にも心の準備というものがあるんだ。そんなすぐにキスとか出来ない。

だが、決して嫌という訳ではない。むしろキ…そういう事がシズちゃんと出来るというのは、ずっとシズちゃんを想い続けてきた俺にとっても喜ばしい事であり、仲をより深めるチャンス。いくら急でも、やっぱりここは恋人として一歩進めるべきかもしれない。

「っ………わ、かった」
「本当か?」
「…っ、…うん」

俺はゆっくりと首を縦に頷く。するとシズちゃんは嬉しそうにふんわりと優しく微笑み、「そうか」とだけ返事をする
その笑顔に心臓はドキリと跳ね、ついつい見とれてしまった。

キス……という行為は、一応経験がないわけではない。
シズちゃんのことを諦めようと何度か違う人と付き合ってみたりした時期に1度や2度。
その時が思うに1番つらかったから、あんまり思い出したくないけど。そんな事を考えている間にも、シズちゃんは既に近い距離をぐっと縮めてきて、目線をどこに映せばいいかわからない戸惑いに襲われた。
だけど俺は今にでも後退りして逃げたい衝動を抑え、ぎゅっと目をつむる。
顔は熱いし心臓の高鳴りは止まないまま、シズちゃんの吐息がかかるほどの近さまでやって来たところで、

そして。

小さなリップ音を奏で、唇と唇は重なった。

「ん、」

初めてだからか、ぎこちない感じのキス。俺は口をぎゅ、と閉ざしているから、そのせいかもしれない。いやだって仕方ないだろ。
そして少しするとシズちゃんは唇を離し、俺は一旦緊張感から解放された。

「手前、目ェ開けてろよ」
「は!?まだ、すんの…?」
「当たり前だろ」

…そんな自信満々に「文句あるか」みたいな見下すような顔で言われても困るよ。
本当強引。さっきのだって鼓動がどうにかなりそうだってのに、これ以上俺をどうするつもりなんだろう。このままじゃ俺の体が持たないよ、バカ。

「…ていうかなんで目を開けなきゃなんないの?無理だよ俺恥ずかしくて死んじゃうよ」
「俺の言うとおりにしてろ」

え、理由教えてくれないの?
俺はどうも納得いかなくて、「訳を教えてくんないならもうしない」と駄々をこね、ふて腐れたように口先を尖らせる。
だって目を開けながらとか、シズちゃんの顔をすごく間近で見なきゃならないって事でしょ。そんなのだめだって。顔も含めて好きなんだもん。全部好きだけど。なのに心臓が何も起こらない訳ないじゃないか。
頑固に粘り、キスを拒む俺にシズちゃんはため息をはぁ、と吐き仕方なしに話し始める。

「臨也の目が見たいんだ、俺は」
「……え?」
「赤くて綺麗だろ」

シズちゃんは俺の頬に手を添えて、再びさっき見せた柔らかい笑顔を見せる。
綺麗?俺の目が?本当に言ってるの?
嘘でもシズちゃんからそう褒められると破壊力が半端ないって事。その事を体験して、初めて知った。褒められるってこんなに嬉しい事だっけ。

「……気持ち悪いとかじゃ、ないの?」
「んな事思う訳ねーだろ。赤が澄んでいていい。されに俺は手前の全てが綺麗だと思うから、その事ちゃんと承知しておけよ?」
「ッ」

連続してシズちゃんの口から正真正銘に、口説くような言葉がちゃんちゃんと普通出てきて、その度に俺は本気にしてしまう。どうにも出来ない恥ずかしさに、既に赤く染まってしまった顔を伏せた。

「も、いいから!わかった、目、開けるって…!」
「そうか?」

シズちゃんの問いに、うんうんと何度か頷き了承すると、気付いた時にはもうシズちゃんは俺に顔を近付けてきて、またさっきの強張った緊張感が再び俺の中に現れる。

「……ぅ」
「もうちょい肩の力を抜けよ」
「…う、ん」

そう言われても、落ち着ける訳ないだろ?シズちゃんは何もわかってないな。
だけど俺は強がって、わざと気を緩め、冷静なフリを装う。心臓はバクバクうるさくて、シズちゃんに聞こえてしまうのではないかと少し不安になった。それくらい余裕がないって事だよ。

そんなこんなで言われた通り目をつむらずに、シズちゃんからのキスをじっと待つ。
だけどさ、なんかこれ、焦らしすぎない?かれこれ15分見つめ合ってるけど、シズちゃんがキスをしてくる気配は感じ取れないし、行動だって読み取れないんだもん。
ひどいね。こんなんじゃ心臓も神経も休まらないじゃん。もしかしてからかってるとか?面白がって?
あーもう、ネガティブな考えばかりが頭に過ぎってしまう。
俺はついにこの状況に耐え切れなくなり、そのイライラを感情に任せ、声を上げようとしたその時。

不意に頬にシズちゃんの唇が触れる。

「あ……」

するとすぐにそのキスは唇に移り、目尻、額と気まぐれに様々な所に唇を落とすシズちゃん。これだけ何度も続く少しくすぐったくて、頭の思考が飛んでしまう。

だけど、さっき言われた目は開けてろ、という言葉はちゃんと守り、今だって目を開けその言い付けを維持し続けている。

だがそのシズちゃんも目を開けてキスをしてくるため、所々視線が合い、その度に"あ、今俺シズちゃんとキスしてるんだ"と自覚させられ、ふわふわした気分になった。

それと同時にシズちゃんの事が好きだって気持ちも溢れ出して、恋人同士の甘さを感じる事が出来て、すごく嬉しい。











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