MAIL[9] | ナノ







MAIL ‐9‐









あの出来事から何ヶ月経ったかなあ。
たぶん2ヶ月ちょいくらい。わかんない。
だって、食事した時の記憶さえ、一部しか覚えてないし。簡単に言ってしまえば、それだけ緊張したってこと。
冷静に装ってたつもりだったけど心臓は自分で聞こえるくらいバクバク鳴ってた。

あれからメールは一週間に3、4通以上交換して、最低でも週1回。そのやり取りした内容を思い返してみると、本当に俺何やってんだろう、って思った。

嫌いなやつとメールしてんだよ?
変としか言いようがない。

それに最もナゾなのは、俺がそれを嫌悪してないって事だ。
その気になればメアドだって変えられるし、着信拒否だって出来る。、ケータイを買い替える事だって可能なのに、やめられないままでいる俺ってバカなのかな。

「あなた最近ケータイばかり気にしてるわよね」

ある時、仕事を処理していると波江さんが急に図星を突いてきた。いきなりの言葉に一瞬ギクッと体が硬直する。

「えっ……あ、そうかな?気のせいだよきっと!俺知らないし!」

そう首を横に振って、無理矢理それを否定すると、波江さんは当たり前にも疑いの視線を俺にぶつける。
その視線に気付かないフリをして黙々と仕事を進めていると、波江さんはやがて諦めたように「ふーん、そう」と呟いた。

ふう。危なかった。思わず咄嗟に否定してしまった。
ズちゃんとメールしてるって知ったら、みんなはどう反応するだろうか。
波江さんになら言っても良かったかな、なんて今更思う。
そう後悔ままならぬ複雑な気持ちで居ると、突然ケータイの着信音が鳴り響いた。
シズちゃんかな、って思ったけど、この音は電話用に設定していた着信音だったため、急いで通話ボタンを押し、誰もいない寝室の方へ移動する。

「っもしもし」
『こんにちは』
「あ、四木さん……」

電話の相手は四木さん。
低くて男らしいその声でわかった。また依頼かな。なんて思いながら、淡々に俺は「なんですか?」と問う。
すると四木さんは不自然な黙り込み、やがて四木さんらしいゆっくりとした口調で会話をし始める。

『――この前依頼した仕事、ありましたよね』
「はい。でもそれはこなしたはずですけど……それが何か?」
『……あの情報に誤りがあったようで、取引先の方がクレームを申してきました』
「えっ………」

その言葉を聞いた途端、いっきに心が動揺した。
だってこの俺が失敗なんて――そんなの信じられるわけがない。

「うそ………」
『嘘ではありません』

速攻に俺の言葉を否定する。いつもより倍、声のトーンが低い事から、四木さんの怒りが電話越しから伝わってくる。

「あの、ごめんなさい」
『それで許されると思っているんですか?』
「っ……いえ。この件は全て不注意の及んだ俺のせいです。罰なら受ける覚悟だって出来てますし、信頼を失われてもしょうがないと思ってます。……ごめんなさい、四木さん……」

小声でありながら、精一杯の謝罪をする。
俺は、気付かないうちに、俺はどこか気が揺るんでいたんだと思う。
メールばっか気にして、絶対油断なんかしちゃだめだったんだ。信頼が大事な仕事なのに。

「あの………」
『もう結構です』

俺はその意味がわからなくて、「え?」と拍子抜けした声が漏れる。すると四木さんはハァ、小さくと息を吐き、『だから許すと言っているんです』と、苛立ちの混じった声で言い放った。「なんで……」
『クレームはこちらの方で処理しときましたから。その代わり、次失敗したら許しませんよ』

そう伝えると、四木さんは一方的にガチャ、と電話を切る。
……お礼言い忘れちゃったな。

でも――これで許してもらえなかった事を考えると、この先どうなっていたんだろう。そう考えると、どうしようもない悪寒が走る。

そして意識が気付いた時には手を小刻みに震わせながら、シズちゃんにメールを打っていた。
腰の力は抜け、へにゃん、と地べたに座り込みながら。







「シズちゃん……」





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