MAIL[8] | ナノ







MAIL ‐8‐






何を話そうかなんて、決まっているわけない。だけど緊張はしていない。苛立ちだって今は―――。

あれから食事に誘ったあと、ロシア寿司に連れ込み、今現在臨也と一緒に寿司を食っている。
だが、いつ俺が大声出すかわからないし、怒りが爆発するかさえ把握出来ない。そのため、目立たぬように陰に隠れた奥の場所を選んだ。
だが、勘違いしないでほしい。俺が臨也に怒っているという訳ではないという事を。俺はどんな時でも、たったひとつの言動に怒り狂ってしまう時があるから。こういう時、自分の感情をコントロール出来たら――と思う。
臨也に対しても。

「――あのさ…」

視線を泳がせ、気まずそうに口を開く臨也。そんな臨也をよく見ると、体が不自然に強張った様子が確認できる。
漂っている雰囲気からも緊張しているように思えた。そんな緊張されたら、こっちだって緊張するだろう。まあ――俺の思い違いかもしれないけれど。「なんだ?」
「あ……ああ、えっと………なんで俺を…ご飯に誘ったの?」
臨也から浴びせられた唐突な問いに一瞬目を見開く。
俺にだってわからない。
トムさんに言われたから?話をしたかったから?何か聞きたい事があったから?

自分に問い掛けるが、やはり決定的な事は定かにはならなかった。

「別に…。じゃあ逆に聞くが、手前はなぜここにやって来た?」
「……メール、見たから」

そう言うと臨也は、顔を目線と共に俺から逸らす。
その行動に何故か腹が立ち、今すぐにでも臨也の顔を無理矢理俺の方に向かせ、「俺の目を見ろよ」と大声で言いたい。
だがこの場面では抑え、ひとつ息を吐いて、気持ちを静める。

「まあ俺が手前が来るのわかってたけどな。本当は食事に誘ったのだっていきなり思いついた事じゃなくて、メールを送る前から考えてた事だったから」
「…………っ!あ、あは、そうなんだ」

一瞬臨也は目をぱちくりとまばたきをさせると、何故だか動揺している様子で、笑みを見せながら、こくこくと何度か頷いたり、突然後ろを振り向いたりと、意味はわからないが、見てる分には面白い。
だが、そんな臨也の頬が微かに紅色に染まっていたのだが、何か変な事を言っただろうか。
つくづく変なやつだ。

「とりあえずメールで言った事守れよ」
「…?といっても、あの文の意味全然わかんなかったからどうしようもないし…」

臨也は困ったような表情で俺を目をじっと見つめた。
この瞳は何かを求めてるような、そんな感じが伝わる。つまり詳しく聞きたいって事か。わかりやすい。

「ああ、まあ簡単に言うと仕事もほどほどにしといて自分を気遣えって事。あとどんなに忙しくても俺のメールには絶対早く返信しろって事だ。わかったか」
「…っう、うん…」

臨也は首を縦に振り、用意されていた飲み水を口に運んだ。
その間俺は、残っている寿司を食ってしまう。
すると、

「……ねえ」
「なんだ?」
「…これからも俺、シズちゃんに、メールしていいのかなあー…なんて」

臨也は顔を下に俯き、言葉を繋ぐごとに弱々しい小声になっていく。その発言に一時的に体が硬直する。まさかこんな質問がぶつけられるとは思ってなかったから。

「―――」
「!ごめん、変な事言った。自分でも何かバカだと思った。最近いつもこんな調子でさ、許してよね」

アハハと、わざとらしく微笑する臨也に、確かな違和感を覚える。臨也は慌てるように、あーだこーだと言い訳を重ねているが、何を言ってるか全く理解出来ない。あーもうイライラする。

「いい」
「え?」
「だから!いつでもメールしてきてもいいっつってんだよ!別に悪い気はしねえから」

すると臨也は目を大きく開き、堅苦しい様子で「…あ、ありがとう」と、か細い声で礼を言った。さっきから謝ったり、礼を言ったり、臨也らしくない。だけど、それは俺も同じようなものだった。真っ正面から突き進むほど、互いに不器用になってしまう。
それに、メールを許可したのは、手前のためじゃないし、気遣ったわけでもない。俺のためだから。
俺自身がそうしたかったからなのだ。

自分の気持ちに確認してわかったこと。俺は臨也を心から心配していた。不覚でも、事実には変わらない。

そして、臨也からの質問でわかった事もある。
俺は臨也とメールをやり取りすることをやめる気なんてなかった。

でもいまだに疑問な事が存在している。
どう唸っても考えがまとまらない事。
以前までは決め付けていた事。
それは――――コイツの事をどう思っているんだ?

という事。

でもまあ今はいい。
めんどくさい事は嫌いだ。







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