MAIL[後] | ナノ

MAIL ‐後‐

――sizuo side





それから朝起きれば、
またメールが来ていた。




なんでコイツとメール交換なんかしてるんだ。そう頭で思いながらも気付けば返信していた。寝ぼけていたんだと信じたい。
まあ――送信ボタンを押したと同時に頭が冴え、自分の送信したメールを見て絶望する事になるのだが。

「……これを送っちまったのか、俺」

その内容は、『今起きた飯食ったか』

なんて変な事を聞いてしまった内容。
ああもうこれじゃただのフツーのメールじゃねーかクソ。返信なんかいらねーから無視してくれ。

なんて思いながらもケータイをチラチラと気にしてしまう。
はあ。思わず大きなため息をついた。
そしたらその瞬間、またもや数分で、手に持っているケータイから着信音が鳴る。
あ、もしや。なんて感づきながら、俺はそのまま受信ボックスから新着メールを確認する。
そこに表示されていたのは思った通り、折原臨也の文字。
さっきアドレス帳に登録した名前だ。それを一目確認した俺はとりあえずそのメールを開く。

『おーはよ(゚▽゚)/まだご飯食べてなーい(笑)』

なんだ。予想よりずっとまともな内容がこちらに送られてきて少し意外だった。臨也のことだから馬鹿にすんのかとばかり思ってたから。そしたら自分をケータイを折って臨也んとこまで怒鳴りに行ってたかもしんねーけどな。
臨也――本当は根はいいヤツだったりして。なんて自分でも驚くような事を脳裏に浮かび、慌ててその考えを消し去る。あぶね。

時計を見るともうすぐでトムさんと約束していた仕事の時間が迫っていたため、『食えよ絶対、絶対だぞ』と入れて送信し、出かける準備をした。

*

「おっ静雄、時間通りだな」
「っス、なんとか」

準備にはあまり時間がかからないため早く家から出られ、その勢いに任せ、急ぎ足で待ち合わせ場所までやってきた。おかげで時間ぴったりに来れたため、良しとしよう。それにしてもギリギリだったな。

「じゃー行きますか」
「はい」
俺はひとつ頷き、そうしてまた今日も取り立てに向かった。今日は昨日より機嫌が良いと思う。
だから俺の仕事も上手くいった。途中までは――の話なのだが。
休憩中。自販機で購入した水を飲み、喉を潤した後は、無意識にケータイを開く。――だが。

「…あ?」

新着メールの中に、"折原臨也"の名前はなかった。まずは疑問が浮かび上がり、もう一度受信ボックスの中を見る。
だがやはり臨也からのメールはない。
その次に、表された感情――それは。

「渋い顔してどうした?静雄」
「……いえ」
「悩みがあるなら相談乗るぞ?」

優しい口調で俺に問い掛ける。そのトムさんの思いやりに心を打たれ、俺は口を開く。

「実は……あるやつとメールしてるんです。してるっていうか…、昨日からなんですけど」

トムさんは黙って俺の話を聞き、俺も黙々と話を続けた。

「そいつ、いつも返信早いんスよ、今日も飯食ったかーなんて何気ない会話とかして。だからさっきもメール来てるかと思ったんすけどメール来てなかったんスよ。しかも俺何かあったんじゃないか――なんて変な心配してしまってどうしようか悩んでたんです、すいません」

やっとしゃべり終わったところで、なんだかいつもより饒舌になってしまっていたんだと気づく。
トムさんは「そうかあ…」とうんうん頷き、微笑んだ。
「静雄はその子の事が好きなのか?」
「は?…いえ、そいつおと、」
「俺の前で嘘つかなくていいんだぞ!そうかそうかー!」

にかっとした明るい笑顔で「やったな」と肩をぽんぽんと叩く。

――しまった。早く男だと伝えるべきだった。そう今更思っても遅く、男だと言い出す隙もないまま、トムさんは言葉を繋ぐ。

「そうだなー。俺にとっても嬉しいよ!静雄が恋か!そっかそっか。あ、話を戻すな。静雄、その子の電話番号とか知らないのか?」
「電話番号、ですか。知らないです。昨日アドレスを知ったばかりですし…」

電話番号――か。
臨也なら俺の番号くらい知っているだろう。仮にも情報屋なのだから。
トムさんは少し悩んだ末、「そうかー」と再び微笑む。親身になって聞いてくれるトムさんに感謝の気持ちでいっぱいだ。

「なら、もう一度メール送ってみたらどうだ?心配してる、なんて言われたら女の子嬉しいと思うぞ?お前のメールに気付いてないかもしれないしな」
「ああ…」
「なんだったらこの機会に食事でも誘ったらどうだ?そういう理由だったら早めに上がってもいいからな。静雄にはいつも助けられてんだ、ありがとな」
「そんな、俺の方こそ頼りになりっぱなしで。ありがとうございます」

感謝の意義を込めて、俺はトムさんに一礼した。
トムさんはそんな俺を「そんなカシコまんなよ」と笑い、空気を柔らかくさせる。

「まあとりあえずメールしてみろ、今日は上がってもいいから!また相談してくれよー?」
「うす、わかりました。すいません、じゃあ今日はこれで」
「おう、お疲れ」

そしていったん、俺はこの場から離れ、人通りの多い、デンパの良い場所へ移動し、早速メールを打ちはじめる。だがやはり文章というものは苦手だ。どう頭を働かせても無愛想なメールになってしまう。まあ――それが俺というもの。自身でも既に認めている。

『おい返信ねーけどどうかしたか』

時間をかけて出来上がったメール。最終的にも無愛想な感じに仕上がってしまったが、この際もうどうでもいい。まずは送るのが先だ。とりあえず俺は送信ボタンを押す。
それから間もなくしても、アイツからの返信がくる気配は感じない。その事実にため息を吐き、それと同時に頭に変な心配が過ぎってしまう。

「……まさか飯食ってなくて倒れてたりしないだろうな…アイツ細いし、白いし。ちゃんと食ってんのか?いや、アイツなら有り得る。結構ストレス溜め込みそうだしよ…。あーもうわかんねえ!」

このやり場のないイライラが募り、近くにあった電柱を思い切り蹴ると、周りにいた女子高生3人が「きゃあ!?なに!?」と叫びながら走って逃げて行った。あ、やべ。

それからしばらく、ブラブラと遊歩していた時、気付かぬうちに、心のどこかで意識していたのか、ケータイの着信音が鳴り、その音が耳に入った途端、衝動で俺はポケットの中に入れておいたケータイを手に取り、迷わずに受信ボックスを開く。新着メール――折原臨也だ。その文字を確認した俺は、即席に臨也から送られてきたそのメールの本文を読んだ。

「……んだよ」

その言葉は怒りでもない悲しみでもない。安心した、という意味での一言なのだ。

『昨日ずっと仕事してたから寝てたー(笑)俺が仕事とかすごいでしょー(@_@)褒めて(∀)今からご飯に食べまーす』

という臨也のメールに。
俺が知らない間、寝てる間にも臨也は働いていたのだと思うと、なぜだか無性に抱きしめてやりたくなる。これって変なのだろうか。

アイツの事は嫌いだ。笑顔、性格、見下したような目。
だけどこの短期間でメールしただけでも知らない事はたくさんあった。
まず俺が件名をつけずメールを送っても、必ず臨也は顔文字や一言を件名に付け加え送ってくること。それに顔文字を使うこと。さっき言ったように徹夜で仕事をやり通すことがあるということ。
これ以外にもまだ知らないことは山ほどあるだろう。

そんな事を思いながらメールを作成する。言いたい事は全部詰め込んだ。意味不明という言葉が似合うようなそんな内容のメールを折原臨也に送信した午後12時45分。

『なんだよどーでもいいけど早く返信しろアホ糞ノミ蟲。とりあえずぶっ殺す。飯は後ででいいから今すぐ池袋来い相手してやる。あと夜通し仕事すんなよ馬鹿』





「きっと来るだろ」



今思えば、その時に無意識ながらも臨也が来ないという選択肢はなかったんだ。





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