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MAIL ‐前‐

――sizuo side






ある日突然、
見覚えのないアドレスからメールがやってきた。
その日まで
少し遡(さかのぼ)ってみる。







「は?」

まず最初の第一声はこれだった。
その原因はそう、仕事の休憩中に来た1通のメールによるもの。
見覚えのないアドレスだったというのもそうだけれど、最も眉をしかめたのは内容だった。

その内容とは『シズちゃん元気〜?ばぁか(笑)』という、見下し加減がばっちり篭ったもの。
このメールの主はもう確実といってもいいのではないだろうか。
きっとこのアドレスは臨也のものではないのか。臨也という言葉が頭の中に浮かんだ事だけで、思わず舌打ちをしてしまう。

「静雄ー、そろそろ行くぞ」
「トムさん……はい」
「機嫌悪いのか?」
「いえ…ちょっと迷惑メールが…でももう大丈夫っす」
トムさんは疑問気な顔をしながらも微笑み、「そうかー」と相槌を打ち、そのまま仕事を再開した。それから、さっきの出来事は頭から消し去り、一心不乱に仕事に没頭した。これはきっと一種の嫌がらせだ。そう俺に言い聞かせても、イライラが収まることはなかったのだが。

――そして夜。長引いた仕事が終わり、家に帰宅した。
風呂も入り、疲れた体を休めようとベッドに横たわる。今日は不運な日だった。回キレたっけな。数えきれないくらいか。トムさんにも迷惑かけちまったし。最悪だ。
それに変なメールも――あ。
そういやあれからケータイ開いてねえな。それに気付いた俺は、一旦体を起こし、テーブルに放置してあるケータイを手に取る。

「…来てねえな」

思わず独り言が漏れる。新着メールの中に、あのアドレスからのメールはなかった。やはり臨也からだというのは俺の思い過ごしなのだろうか。認識できるものもなければそう強い根拠もない。まあ、臨也じゃなければ誰なんだ――という話なのだが。このままでは推理するばかりだけで時間だけが過ぎていく。しょうがねえ、だったら――直接言って、確かめてみようか。そう思い立った俺は即座に指を滑らせ文字を打つ。

『臨也か』

たった3文字。それだけを入力してこのメールを送信する。とりあえず俺はベッドに戻り、再び体を横にした。もともと文章とか苦手である俺は、3個の文字でも普通な方だ。いつも『はい。』とか『だな。』とか基本的そういう短文しか送らねえから。あまりケータイも使わねえし、"臨也"と変換させるのだって時間がかかったんだ。

もし臨也がこれに返信してくるなら次は"文短い"なんて文句を加えたメールを送ってくると思う。それは勝手な推測であり、曖昧な予測なのだが。
すると早速ピピピ、という着信音が静かな狭い部屋に響き、そのケータイに表示されていたのは、早い事にあのアドレス。
アイツ女子高生並に文字打つの早そうだもんな。なんて自身で納得する。そんな事を面白半分に思いながらメールの本文を開いた。
ああ臨也だな。そう確信出来たのはメール見てすぐの事。

『そうかもねーWWていうかシズちゃん文短いよ』

思惑通りの文章だな。不覚にも笑いがこぼれる。最も臨也らしい文章と言えよう。嫌いなあの笑みも液晶越しじゃあ見えない。だからなのか、あのどうにもならない苛立ちは感じなかった。
臨也の顔を見なければ俺って案外平気なんじゃないのか?そう考えそうになって途中でその思考は途切れた。

理由は簡単、寝落ちしてしまったからである。









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