MAIL[7] | ナノ








MAIL ‐7‐





俺はシズちゃんからのメールに書かれた通りに、池袋へ向かった。といってもあくまで散歩ついでに。

なので、徒歩で駅まで行って、マイペースに電車に乗る。その時は、知らぬ間に足早になっていた事にも気付かなかった。

だけど、新宿から池袋まで約数分。

だから、のんびりといってもすぐに池袋に着いてしまう。

つまり、心の準備というものが出来てないワケで、一瞬電車から降りるのをためらったりしたが、そのまま突っ立ってていてもしょうがないので、俺はのそのそと電車を降りた。

そういえば池袋に来るの、久しぶりかも。相変わらず多い池袋の人通り。

…ていうか何しようかな。迷いに迷った俺は、とりあえず、散歩らしく適当に歩いてみる事にする。
いつもはシズちゃんへの嫌がらせとか仕事とか、何か企んで来たりしかしないからどことなく新鮮である。

そんな事を思いながら町を歩いていたその時、

ドゴォォン!!

俺の横を勢いよく自販機が横切る。その逆風で髪がぶわっと揺れ、後ろを振り向くと破片が散らばり、すでに壊滅している自販機がそこにあった。

その自販機の位置が少しズレていたら、俺に衝突してたかもしれない。……危ないところだった。

その前に、こんな自販機が投げてくるやつなんて、アイツしかいない。それは金髪の、

「……シズちゃん?」
「よぉ?」

前に顔を向けると、やはり思った通りのシズちゃんが居た。シズちゃんは口元をにやつかせながら笑い、血管を浮かばせながら俺を睨んでくる。
……いつもの事だけど、いつもの雰囲気とはまた違う怒りが伝わってくる。

「あははっ、急に自販機投げるとか本当ありえない。危ないからやめたほうがいいよ?」
「手前がぼけっと歩いてるからだろーが!」
「は?シズちゃんの影が薄いから気付かなかっただけだよ、何言ってんの?」
「ああ?俺のせいかよ」

シズちゃんは眉間にシワを寄せる。俺、ちゃんといつも通りに振る舞えてるかな。何故だか知らないけど自分の体が変に意識して、いつものように言葉をつらつら並べる事が出来ない。

「本当にすぐ怒るんだからシズちゃんは。単細胞なの直した方がいいよ」
「てめぇぇ!!普通に考えても手前のせいだろうが!!」

そう大声で怒鳴るように言うと、シズちゃんは近くにあった標識を引っこ抜き、思い切り俺に向かって投げる。
標識に当たって痛い思いをするのはもちろん避けたいし、そのまま捕まるわけにもいかないため、その反射で俺もシズちゃんから勢いよく逃げだした。

俺は高校時代からこうしてシズちゃんから逃げ回っていたから、逃げ足は速い方だと思う。足の筋肉もそれなりについてると思う。
あ、シズちゃんもずっと俺を追い掛けてるからシズちゃんも足速いか。

そんなシズちゃんは後ろから、「待てごらァァ!!」なんて大声を発しやがら追い掛けてくるけど、たぶんそれで待つ人なんていない。
真に俺がそうだから。

とりあえず俺はシズちゃんから遠ざけようと、既に疲れている足を一生懸命動かし、池袋の町を駆けて行く。

その最中、シズちゃんの視線から一瞬だけ外れる、という絶好のチャンスが俺に与えられ、ほんの一瞬だったその隙を狙い、俺は細い路地の隙間にすっと隠れた。ほんとに狭くて一人分しか隠れる隙間がない上、日陰なので暗くて見つかりづらい。
そのためか、シズちゃんは気付かずに俺の隠れている路地を走って通り過ぎた。
それをこの目確認し、俺はほっと胸を撫で下ろす。
本当はこうやって隠れたりして逃げるは初めてじゃない。
実のところ、高校時代からずっと何度も使っていたりする。

もちろんこの方法は失敗した事はなく、成功した事例しか存在しない。
だが逃げ切れた今、このまま新宿に帰るのも少し物足りない気がする。
せっかくだし、もうちょっと話してもよかったかな。

…ってダメダメ。散歩に来たんだからきっとこれくらいが調度良いんだ、きっと。それに今さら事思っても仕方ないし、特に話す事もない。

そう俺に言い聞かせ、一旦この狭い路地から抜けようとしたその時――。

「見ィつけた」
「ッうぇ!?シ、ズッ……」

人通りのある道に出た途端、待っていたのはシズちゃんの姿だった。
驚きで声が詰まる俺と、やり切ったような表情を浮かべながら俺を見るシズちゃん。

「なっ、なんで?えっ?」
「ノミ蟲のことなんざ俺にはお見通しなんだよ」
「えっ、と」

今俺はきっと動揺している。
その原因は、認めたくないけどシズちゃんで。
メールでもそうだけど、シズちゃんの行動も言動も予測出来ないから困る。

その言葉もきっとさりげなく言ったのだ。

動揺してるその心を、表に出さないように気を使いながら、「あははは!バレちゃった。シズちゃんに見破られるとか超屈辱的なんだけど」なんて、嫌味ったらしく言ってみる。

だけどシズちゃんは表情を少しも崩さずに、「そーかよ」と怒った様子も見せずに受け答えた。

シズちゃんならまた怒るのかと思ったんだけど、どうやら違ったよう。

その事を疑問を抱いていると、シズちゃんは急に俺から目を逸ら
し、「あー…」なんて情けない声を漏らす。その仕種に疑問を覚え、俺は首を傾げ「何?」と問うと、重たそうに口を開き、こう言った。

「…腹減ったし、どっかに飯でも食いに行かねえか」

と、シズちゃんからの口から申し出た。その場で頭が真っ白になり、しばらく信じられなかった。
食事に誘われるなんて有り得ないのに。考えた事もなかった。






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