2.出逢い、始まり

あの人に助けられてから、私はハッキリとしない意識の中で日々を過ごしていた。
周囲に見えるのは水色の壁、妙に薄暗くて身動きが取れない。私は多分氷の中に居るんだと思う。
時たま現れるあの男の人は私を眺めて満足そうに笑ったり氷を磨いたり何かを呟いたりして数時間おきにやってくる。

どうしてこんな所に居るんだろう…私…誰?

「なっ! 何故ここ…うぐっ」
突然男の人が倒れた。腹を抑えて苦しそうにした後、紅蓮の鎧を身に着けた男性が首後ろを叩くと気を失って倒れた。

「………殿、いいのですかこの様な事を」

「彼女をこの様な創られた空間に放置しておけば絶命は避けられぬ」

「何故この少女にそこまで…」

「…………………………」
男性の疑問に答えることなく、漆黒の鎧を身に着けた者が少女の身を包む氷を剣で一閃し、氷河から解放された少女を受け止める。
白いワンピースが靡く、その上から上着を羽織らせると少女を抱きかかえる。

「少女を逃がす故、退路を確保願う」

「…承知致しました」
紅蓮の鎧の男性は甲を被り部屋の扉を蹴破る。兵を男性一人で駆けながら斬りつけ、騎士がその背後から出口へ向かう。


「あ…………」
少女が目を覚まし声を零した。口が微かに震えていて思ったように言葉話せなく、何より今の状況に一番驚いている。

「貴殿を此よりクリミア近郊へと送り届ける。そこでグレイル傭兵団を頼るといい」

「…ぐ…れい…る?」

「…そうだ。それまでは…眠るが良い」
少女がそっと瞼を閉じ、騎士は足を速めた。













――――――

「う…ここどこ?」
目を覚ますと木々が生い茂る森に放置されていた。重たい瞼を擦り立ち上がろうと地に手を付けて産まれたての子鹿のような体勢になり立ち上がることは出来るがものの数十秒で地にお尻がついてしまう。
匍匐前進で前に進んでも、あの騎士が言っていたグレイル傭兵団って人はいないし…。

「でも…空気が美味しい」
久しぶりの外に思わず顔が綻ぶ。地に顔を付いてゆっくりまた瞼を閉じる。





――――――

「兄さん、この草ってハーブ?」

「そうだよヨファ、もう少し余分に採ってもらえるかい?」

「わかったー」
笊に香草を摘み取り兄は槍片手に森を彷徨く。昼御飯の肉を取りに兎や鹿を探しているが…そう簡単には見つからない。

「仕方ない、今日はサラダの盛り合わせで我慢してもらうしか…」
諦めかけたその時、茂みから白い物体が窺えた。もしや兎だろうか?
足音を立てず気配を殺し物体に近寄り――長槍を物体に突き刺した。


「おや?」
しかしその物体は抵抗もせず悲鳴も上げず…おかしいと思い槍をこちら側に引き寄せてみる。
すると誰が予想しただろうか、白い物体は服の布、引きずられて姿を現したのは…気持ちよさそうに眠る少女だった。


「兄さんこれくらい……ってうわ!!」
山盛りに積まれた笊を持つ珍しく唖然としている兄の視線の先を見て摘み立ての香草をぶちまける。

「ししししししんしんで!?」

「いや、脈はあるし息もしているよ。ただ体温が低い。ヨファ今すぐこの子を傭兵団の元へ連れて帰ろう」

「うん…わかった」
落ちている長槍を回収し、馬に少女を乗せた後に自分も馬に跨る。その後ろにヨファも乗って馬を走らせた。
蹄鉄の心地良く鳴る揺りかごの中少女はうっすら目を開けて、また閉じた。





これが私にとって全ての始まりだった












episode.1 氷の少女
















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