5.入団挨拶

傭兵団のみんなに挨拶…と行きたいところだけど、それぞれ出かけていて砦には居ないらしい。
ネーヴェルは団員の帰りを待つ間セネリオに貰った“ファイアーの書”をリビングで読んでいた そしてその隣でミストが裁縫をしている。

「兄さん、ミストちゃんただいま……あれ お客さん?」
大声がリビングに響いた。その声の主は黄緑色のショートカットの男の子が身を屈めてネーヴェルと目線を合わせる。

「あー疲れた腹減った〜 兄貴飯まだかー?」

「ボーレ、まだ傷の手当てが…」

「大丈夫だキルロイ、アイツは体力バカだからライブ要らずだ」

「逆にライブの無駄遣いになるから止めた方がいいわね」

「アイクならまだしもティアマトさんまで言うか…」
ぞろぞろ沢山の人がリビングにやってくる。身を屈めてミストの背中に隠れて一人一人に視線をやる。
斧を置いて気怠そうに椅子に座った筋肉質な男の人、杖を握り締めている橙色の髪の毛の優しそうな男性に緑の鉢巻きをした藍色髪の青年に重装備で赤く長い三つ編みが目立つ女性。

「君って確か今朝の…」
小さな男の子が言いかけたその時、また三人の男性が現れた。

「あ!」
その中の一人、黄土色の髪をした男性を見つけるとネーヴェルが声を出して立ち上がる。一気に一同の視線がネーヴェルに集まる中、彼女はその男性に駆け寄り立ち止まると口ごもる。
リビングに置いてあった写真立てに写っていたこの人が、グレイル傭兵団の団長さんだってオスカーが教えてくれた。


「えっ と…ね、よろし おね いし ます」
とりあえず頭を下げてお世話になることをお願いして、さっき教わった“挨拶”で手を差し出した。
キッチンで見ていたオスカーがプッと吹き出し、髪を束ねた男性が顔をしかめて、その隣の重装備の男性が目を輝かせる。
目を丸くしていた初老の男性は思い出したかのように手の平を叩く。そしてネーヴェルの手を握って精一杯の挨拶に応えた。

「君がセネリオの言っていたネーヴェルか…」
ネーヴェルの両肩を掴みぐるっと180度回転させて皆の方へ向ける。


「今日から傭兵団の新しい団員となるネーヴェルだ。記憶を無くしていて色々と覚束ないことも多々あるが、そこは皆で補ってやってくれ」
部屋に静寂が走る中、最初に話しかけた男の子が寄ってくる。

「僕ヨファ、よろしくネーヴェルちゃん」
手を握ってにこやかに笑ったヨファにネーヴェルも笑う。

「僕はキルロイです。怪我をしたらいつでも言ってください」

「おれガトリーっす! 是非とも仲良くしてほしいっす!!」

「よー 俺はボーレな、よろしく」

「ようこそグレイル傭兵団へ。私は副長のティアマト。よろしくね」

「ほらお兄ちゃんも、シノンさんも!」
ミストに指摘されて藍色髪の男性が前に出る。

「アイクだ。よろしく頼む」
淡々と必要な言葉だけ告げるとアイクという青年は椅子に腰掛ける。シノンと呼ばれた男性は目を合わせることもなく無言を貫いている。

「もーっ、シノンさんってば…。誤解しないでねネーヴェル、悪い人じゃないのよ」
少しだけあのシノンと呼ばれた人が冷たく感じてちょっとだけ落ち込む。

「挨拶は済みましたか」
いつの間にか戻ってきていたセネリオがまた和やかなムードの間に割って入った。

「今朝一連の事で話しそびれた事、そろそろよろしいでしょうか」

「そうだったな。みんなも知っての通り今朝、よその傭兵団に修行に出ていたセネリオが帰ってきた。とんでもない情報付きでな」

「どんな情報だ?」
和やかなムードから一変、不穏な空気に変わる。食事の準備をしているオスカーも手を止めて、グレイルの周りに一同集まる。

「クリミアとデインの間で戦争が始まりました」
それはとても衝撃的な一言だった。









.

[ 7/11 ]

[*prev] [next#]
[目次]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -