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下の階から微かに聞こえるベオクとラグズの乱戦。それも後少しで終わりを迎えるだろう。傷だらけの漆黒の鎧を身につけた彼はただ静かにその時を待っていた。

「…もう時期にここは血の飛び交う戦場になるであろう。貴女はここを去るべきだ」
隣に並ぶ女性…イリスは鞘に剣を収めて漆黒の目の前に立った。

「私は鷺の民ではないけれど、今あなたがなにを考えているのかははっきりと分かるわ」
ゼルギウスの片手を握り、しばらく沈黙する。
一緒に戦ってもいい? なんて聞いてもきっと首を縦に振ってはくれない…わかってる、わかっているけど…。

「……泣いておられるのですか?」
いつの間にか私は涙を流していた。ゼルギウスが甲を取り握られた手にもう片方の手を重ねる。

「長年の夢が叶うの。ベオクとラグズが互いを嫌悪し合わず、混血の子が蔑んだ目で見られないそんな世界。そんな世界を見てからじゃないと私死ねない」

「………………………」

「ゼルギウス生きて、生きていれば私とあなたはもう…独りぼっちじゃなくなるのよ」

「……ありがとうございますイリス殿。貴女と共に生きていたこの生涯、私はなにかと楽しんでいたようです」
遠回しに“その願いは叶えられない”と言われてしまった。イリスの手の甲に口付けを落とし微笑んだ。
あなたの笑った顔、何百年ぶりだろうか。

「では私は行きます。エルラン様にもご挨拶しなきゃ」

「お気をつけて」

「ゼルギウス…また、また逢いましょう」

「ええ…また」
背を向けてゆっくりと私は歩き出した。何度も振り返って彼を止めようと何度も考えた。少し後ろを窺うとゼルギウスは甲を被り私の背中を見つめていた。

やがて私の足はゼルギウスの居る階を通り抜けていた。すぐ後ろには剣を交える青髪の勇者とゼルギウスの声。
その場に座り込んで抑えていた涙が溢れて落ちていった。

しばらくすれば後ろから武器がぶつかり合う金属音は消えていた。扉から様子を窺うと…ゼルギウスはぐったりと壁に背を預けていた。エタルドを手放して…。

「……私も行かなくちゃ」
涙は枯れて、彼の姿が私を奮い立たせた。せめて何も出来ない私に出来ることは彼に祈りを捧げる事だけだ。





せめて安らかな眠りを
(長生きは…するものじゃないわ)










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