雨の唄

ささげもの

雪の降る夜に

はらりはらりと、まるで舞い踊るように闇色の空から降りてくる雪を眺め、主人公は一つ息を漏らす。

白く浮かび上がった吐息は、冷え切った空気に呑み込まれるようにして消えていった。

凍てつく風が吹き抜ける。

その肌を刺すような冷たさに、思わず身をすくめた。


「…降ってきたね。」

「ああ…。」


目標の掃討を済ませ任務完了の報告を入れ終えた主人公とソーマは、廃れた寺の一角で帰投時間を待っていた。

ヘリが到着するまで、まだしばらくはかかるだろう。

申し訳程度とはいえ屋根と壁があって助かった。


「…寒いか?」


自分の横で丸まるようにして膝を抱える主人公に、ソーマが尋ねる。

答えなどわかりきっていたが、それでもあえて尋ねたのは、自身の行動を促すためだ。


彼女は一度ソーマを見上げ、しかしすぐに視線を元に戻し、言った。


「…ううん。大丈夫。」

と。


それは、ソーマの予想に反する答えだった。

明らかな嘘だが、指摘したところで彼女は認めないのだろう。

なにせ震えさえ、必死に堪えているのだから。


彼女が身につけているのはフェンリル支給の制服。

薄着ではないが、決して厚着とは言えないような衣服だ。

一方ソーマは、ワイシャツの上にやや厚手のコートを着ている。


主人公にはわかっていたのだ。

一言「寒い」と言えば、ソーマがどんな行動を取るのか。

断ったところで無駄だ。

どうせ「俺の方が丈夫にできてる」とか「お前が風邪をひくとフェンリルが困る」とか、本心を隠すような言い訳をするに決まっている。

だから彼女は、嘘でも「寒くない」と言い張る。


何も言わずに先に行動しておけばよかったと、ソーマは少し後悔した。

神機使いはそうそう風邪などひかないのだが、だからといって寒いままでいいなんて結論には至らない。

しかし今から動いてしまっては、彼女の我慢や気遣いを無下にしてしまうことになる。

ソーマはため息を吐いた。


「お前は、もう少し人を頼った方がいいんじゃねぇのか。」

「十分甘えさせてもらってるよ。」

「そうかよ。風邪ひいても知らねぇぞ。」


ぶっきらぼうにそう言って、ソーマは主人公のすぐ隣に腰を下ろす。

意外そうな顔でこちらを見る彼女の姿が、視界の端に見えた。


見詰め合いながらなんて、とてもじゃないが恥ずかしくてできない。

だから、あくまで視線はそらしたまま、隣の彼女を引き寄せた。


「…ソーマ?」

「こっちの方が、寒くねぇだろ。」


肩を寄せ合っている、という状況の2人。

いっそ抱きくるんでやった方が、お互いもっとあたたかかっただろうに。

でもこれは、照れ屋で不器用なソーマなりに、主人公への思いやりを精一杯表した結果だった。


「…うん。ありがと。」

「…別に。」


触れたところから徐々にあたたかくなっていく。

じわじわと、むしろあついくらいに思えてくるのは、きっと隣にいる相手を意識してしまっているから。

寒さを忘れられるというなら、それもいいかもしれない。

ただ、次に考えなければならないのは、この状況によって生み出された熱をどう対処するかだ。

…気恥ずかしくて敵わない。

先に口を開いた彼女も、ソーマと同じ心境だったのだろうか。


「ソーマも“たまには”私のこと心配してくれるんだね。」

「勘違いするな。そんなんじゃねえ。」


強調された“たまには”に、普段口にしてくれない言葉を期待する意味を乗せて伝えれば、しかしソーマから返ってきた返事はあまりにも素っ気ないもので。

それはただの照れ隠しだと主人公にもちゃんとわかっていたが、それでもそんなにきっぱり言われると、少し寂しい。


「……ふーん、そう。」


半ば拗ねてしまった彼女が、目を伏せる。

その瞳に宿した一抹の切なさが、どうしようもなくソーマを駆り立てた。


「…気付けよ。」


壁から背を離し、かぶさるように主人公と向かい合う。


「俺は“いつも”お前を心配してる。」


「それは、──」


──どうして?


そう続くはずだった主人公の問いは、ソーマによって呑み込まれた。

寒さの中で一層強く感じる互いの熱を合わせ、想いを重ねる。


次に彼が口にしたのは、彼女の問いに対する答えだった。



「お前のことが好きだからだ。」




それは、雪の降る夜のできごと。
〜Fin.〜

あとがき

みつりんご。さまとの相互記念小説です。
「ソーマとの甘夢を」とのことでした。

だんだん寒くなってきたので、ほんのりあたたかくなるようなお話を…と意識して書いてみました。
加えてソーマのツンデレ感MAXを目指しましたっ。

大変遅くなってしまって、本当にすみませんっ。
内容はお任せということだったのですが、こんな感じでどうでしょうか?

相互リンクしていただき、本当にありがとうございました!
これからもぜひ、よろしくお願いいたします。
2011/10/25 天音ミツル
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