雨の唄
お題 Mission -GEB-
超新星
神機保管庫にやってくると、ソーマは見知った顔と出くわした。第1部隊の隊長であり、ソーマと同じく強襲兵のナギサだ。
「任務か?」
ソーマが神機を手にする彼女に声をかける。
「あ。ソーマ!」
ナギサはソーマに気付いて振り返り、微笑んだ。
どうやらかなり機嫌が良いらしい。
「見て見てっ!」
そう言いながら、彼女は自分の神機をソーマの方へ突き出し、見せびらかすようにして持つ。
今は銃形態になっているナギサの神機。
それを見て、いつも彼女が使っている銃ではないことに気付く。
いつもどんなものを使っているのか聞かれても答えられないが、とりあえずいつものと違うということはわかる。
何せ目の前の彼女の銃は……。
「…なんだこのふざけた外観の銃は。」
「ミラクルステッキ 愛。」
「…見た目に負けず劣らずふざけた名前だな。」
…その名に相応しい、まるで女子児童向けアニメのヒロインが扱う武器のような風貌だった。
「良いでしょ!」
「……俺には何とも言えない。」
どこら辺が良いんだ…という素直な感想は、上機嫌な彼女の笑顔を見たら言えなくなってしまった。
「見た目は別にどうだっていいんだ。すごいんだよ、これ!」
見た目はどうでもいいのかよっ! …というツッコミは、ソーマの心の中だけでなされた。
「何がすごいのか知りたい? 知りたいよね? 知りたいでしょ? おしえてあげる!」
俺は何も言ってねぇっ! …というツッコミは...(以下略)
「このミラクルステッキ、スキル『グルメ』が付いてるんだよ!」
「…グルメ?」
「そう! 捕喰でレアな素材が入手しやすくなるっていう、戦うゴッドイーターの味方スキル!」
「何か欲しい素材があるのか?」
「うん。陰陽輪。」
『陰陽輪』とは、アルダノーヴァ堕天から手に入る素材だったはずだ。
自分にはすでに愛用する神機があって、これから新たに作ることも強化することもないだろうと考えているため、ソーマは素材回収というものにあまり興味がない。
なので、その『陰陽輪』とやらがどれほど良いものなのかなどわからない。
しかしながら、彼女がわざわざ新たに銃を作ってまで欲しがるということは、よほど手に入れにくい良い素材なのだろう。
「ノーヴァ堕天、今日だけで16体も狩ったのに、手に入らなくて…。」
部位破壊も全部やったのに…とナギサは憂い気にため息を吐く。
「……そうか。」
コメントに困る。
なら作れて良かったなと言ってやるべきなのか、それはすごいなと褒めてやるべきなのか、頑張れと応援してやるべきなのか…。
今のソーマは正しい答えを導き出せるだけの判断力を持ち合わせていなかった。
そもそも何が正しいのかもわからなかった。
「これからまた狩りに行くんだっ。」
ふふんと上機嫌な笑みを浮かべる彼女。
天使のように愛らしいのに、悪魔のように恐ろしい笑顔だ。
これから命懸けの任務に赴こうという顔ではない。
アルダノーヴァ堕天は、しつこく付け狙われ、あらゆる全てを破壊され、いとも容易く殺されるのだろう。
生まれて初めてアラガミに同情の念を抱いたソーマだった。
「…もういっそその勢いで絶滅させてやれ。」
「何言ってんの! 絶滅なんてされたら困る! 陰陽輪が!!」
信じられない! という勢いで反論するナギサ。
ソーマとしてはそんなナギサの反応が信じられなかった。
「本末転倒だろ! 陰陽輪が欲しい理由を思い出せ!」
「陰陽輪が欲しい理由…?」
ナギサは怪訝な顔をする。
ソーマは呆れてため息を吐いた。
「別に陰陽輪じゃなくてもいい。それは珍しい良い素材なんだろ? なんで良い素材が欲しいんだ?」
「良い素材が欲しい理由? …より強い武器を作りたいから。」
「なんでより強い武器を作りたいんだ?」
「アラガミをより効率的に倒したいから。」
「なんでアラガミをより効率的に倒したいんだ?」
「良い素材が欲しいから。」
「ループじゃねぇか! そうじゃねぇだろ!」
ナギサは頭の上に疑問符を浮かべる。
ソーマは再びため息を吐いた。
「ゴッドイーターとして働く根本的な目的を思い出せ。」
しかし彼女の疑問符は増えるばかりだ。
「…お前は何のためにゴッドイーターをやってるんだ…?」
そう尋ねてやると、ナギサはハッとなり、やっと思い出したように手を打った。
「お金のため?」
「…………。」
「アラガミを殺る快感?」
「…第3部隊に異動しろ。」
「冗談だよ。」
全く冗談に聞こえなかったが、とりあえず何も言い返すまい。
「…さて。じゃあ私はノーヴァ堕天に行ってくるね。」
すでに任務は受託しているのだろうか、彼女は神機を持って保管庫を出ようとする。
「…一人で行くのか?」
尋ねると、ナギサは振り返った。
そしてふっと悪戯な笑みを浮かべる。
気付いたのだろうか。
ソーマが彼女の身を案じていることに。
「付き合ってくれるの?」
「…ああ。」
「でも、いいの?」
ここに来たってことは、任務に行くつもりだったんじゃないの? …と、彼女が尋ねる。
「…別に大した用じゃない。」
「そっか。ありがと。」
そうお礼の言葉を述べ、ふわりと笑うナギサ。
ナギサが知っているのかどうかはわからないが、ソーマはどうしようもなく、この笑顔に弱いのだ。
自分の顔が赤くなってしまったことに気付き、ソーマは彼女から目をそらす。
神機保管庫が薄暗い場所で良かったと心から思ったソーマだった。
◆ ◆ ◆
アルダノーヴァ堕天単体討伐任務
出撃回数…本日24回(ナギサのみ)
『陰陽輪』獲得数…0(ゼロ)
「…………。」
「……そのスキル本物か?」
「…たぶん。」
「だいたい陰陽輪は捕喰でくるのか?」
「……たぶん?」
「おい…。」
調べてなかったらしい。
…というわけで。
さっそくターミナルのデータベースで調べてみた。
(※ゲームでは調べられません。)
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>>『陰陽輪』入手方法
【難易度9】神の影
追加報酬:5%
部位破壊報酬(天地輪):10%
【難易度10】イザヴェルへの道
追加報酬:10%
部位破壊報酬(天地輪):20%
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「…………。」
「…捕喰はねえな。しかも追加報酬と部位破壊報酬合わせて最大30%か。…何体狩ったって?」
言葉を失うナギサに、やや同情しつつも現実を突き付けるソーマ。
ガンッとナギサは神機を投げ捨てた。
「…おい。リッカに怒られるぞ…。」
しかし、ナギサにはソーマの注意なんて全く耳に入っていないようだ。
「ふふふ…、ふふふふふふふ…。」
暗く不気味な笑い声を上げる。
「ぶっ壊れた…。」
若干ソーマが引いた。
「そうだよね…。スキル一つで変わるなんて期待しちゃった私がバカだったってことだよね…。」
「そもそも捕喰で出てこないんだからそのスキルは無意味だろ…。」
そう言うと、ナギサは俯いたまま黙ってしまう。
そんなナギサを見て、少し言い方が悪かったか…と、良心を痛めるゴッドイーター男子ツンデレ代表。
「……そう落ち込むな。次は出てくるかもしれないだろ。」
俺も付き合うから、もう一度ミッションに行こう…と、慰めてやる。
するとナギサはバッと顔を上げ、ついさっき放った神機を拾い上げる。
その瞳にギラギラと殺意の炎を灯して。
「そうだね! こうなったら質より量!」
「使いどころ間違ってるぞ…。」
「あと20体はいけるっ!!」
「…………。」
その後、しばらくアルダノーヴァ堕天の目撃報告がなくなったらしい。
余談だが、ソーマは6体目あたりで自分が陰陽輪をいくらか所持していることに気付いたのだが…。
ノーヴァ堕天討伐に恐ろしいまでに闘志を燃やすナギサを見て、最後まで言い出せなかったらしい。
結局、彼女が陰陽輪を手に入れることができたのかどうかは、明らかにされていない…。
〜了〜
あとがき
…たぶん、陰陽輪は手に入らなかったんでしょう。ひたすらリーダーの都合に合わせて一緒に任務に来てくれるお人好しなソーマさんでした。
文句を言いつつも手伝って、助けてくれます。
…きっと主人公に片想いしてますね。
2011/8/15