雨の唄
短編 GOD EATER / GOD EATER BURST
被害は常に最小限に、楽しみはいつも最大限に
こんな状況を楽しむなんて、正直悪趣味だとは思う。だけど仕方ないだろ。
アナグラは辛気臭いし、相変わらずヒバリちゃんはつれないし。
だって実際見ていて面白い。
くっくっと笑いながら、階下で繰り広げられる論争を、俺は眺めていた。
「うるさい。俺は今イライラしてるんだ。…話しかけるな。」
「…あ、そう。じゃあいいよ。…行こう、ブレンダン。」
「あ、ああ…。」
腕組みして不機嫌オーラ丸出しのソーマ。
ソーマの恋人で、第1部隊のリーダー、ナギサ。
そして、うちの部隊の筋肉バカこと、ブレンダン。
この3人のやりとりを見ているのが、最近の俺の楽しみの一つだった。
なにせうちの筋肉バカは鈍いし、ソーマの野郎は素直じゃないし。
彼女はというと、鈍い上に素直じゃないから、余計ややこしくなる。
もう大体、何が面白いのかわかってきただろ?
ソーマの発言にカチンときたらしいナギサは、ブレンダンと連れ立ってその場を去ろうとする。
「…ちょっと待て。」
それをソーマが止めた。
「…何?」
一応ナギサは止まって、不機嫌そうにソーマを睨む。
お互い冷やかな視線を送る2人。
それを困った顔で見詰めるブレ公。
今日は一体どうなるんだろうな?
「そいつが俺の“代わり”になれば、お前はそれでいいのか。」
「勝手なこと言わないで。ブレンダンはソーマの代わりじゃない。」
「実際そういう風に“使ってる”だろうが。」
「…人を何だと思ってるの。ソーマが忙しいみたいだから、別の用事を済ませようと思っただけ。…どうせ大した用じゃないし。」
「大したことない用で俺のところに来るな。」
「それはどーもすみませんでしたね。まさかソーマが椅子に座ってジュース飲むのにそんなに忙しいとは思ってなくて。」
「…何だと。」
「事実でしょ。」
殺気すら感じるほどの勢いで睨みあう2人。
ブレンダンはあからさまにオロオロしている。
もうこれだけで腹を抱えて笑うには十分だ。
でもそんなことしたら俺にまで被害が来るだろ?
防衛班班長として、被害は常に最小限に。
余計な火種は投げ込まない主義なんだ。
「ふ、ふたりとも、とりあえず落ち着け…。」
だがブレ公は違うらしい。
まあこいつ自体が“火種”なんだから仕方ないか。
「…あ? 大体テメェがややこしくしてんだろうが。」
「お、俺のせいなのか…?」
お前のせいじゃないけど、お前のせいだ。
哀れブレンダン。
お前はそういう役回りの、損な奴だよ。
そもそも事の発端は、ナギサとブレンダンが2人でいるのを、ソーマが目撃したことからだ。
誰にでも分け隔てなく接するナギサ。
性別も年齢もあまり気にしない。
だからこそソーマは焦りと苛立ちを覚えるのだろう。
加えてソーマはなかなか嫉妬深いらしい。
だからこのような状況が発生する。
…それも毎日のように。
「ブレンダンにあたらないでよ。ソーマの態度が悪いからいけないんでしょ。」
「態度が悪いのは生まれつきだ。今更変えようがねえよ。」
「“変えるつもりがない”の間違いじゃないの? だいたい生まれつきなわけないでしょ。」
「いちいち突っかかってくんな。…うっとうしい。」
「はあ!? 呼び止めたのはそっちでしょ!」
「先に話しかけてきたのはお前だろ!」
もはや意味さえない言い争いをするナギサとソーマ。
ブレンダンは相変わらず困り顔で2人をただ見詰めている。
人が良すぎるのも困りもんだな。
2人の不毛な言い争いが終わる気配はない。
…いい加減気の毒になってきた。
仕方ない。
連れ出してやるか。
身を預けていた手すりから離れ、階下に降りる。
「おーい、ブレンダン。もう行くぞ。」
「タツミ…。」
良かった、助けてくれ…と言わんばかりの目で俺を見てくるブレンダン。
やれやれ、だな。
「大丈夫だ。この2人のことは放っておけ。お前がいると余計ややこしくなるから。」
「なにっ!? やっぱり俺のせいなのか?!」
せっかく連れ出してやろうと思ったのに、ブレンダンはその場を動こうとしない。
「俺に責任があるなら、俺が2人の喧嘩を止めなければ。」
「いや、お前が関わると、余計面倒なことになるんだって。」
「しかし…。」
「…わかった。なら俺に任せろ。」
ブレンダンをぐいぐい引っ張って、論争を続ける2人から引き離す。
この辺りでいいだろう。
「巡回に行くから、先に支度しててくれ。」
「いや、だが…。」
「大丈夫だって。」
俺を信じろ…と、軽くウィンクしてみせた。
…おいおい。
気持ち悪いとか言うなよ。
ブレンダンはかなり不安そうな顔で俺を見詰めてから、一つ頷いてターミナルの方へ向かって行った。
よしよし。
ちょっと試してみたかったんだよな。
…悪いな、カレル。
お前に恨みはないけど。
「おーい、ナギサ。」
声をかけると、ナギサとソーマがこちらを振り返る。
ソーマが、今度はテメェか…みたいな表情で俺を睨みつけた。
けど、次の瞬間には俺じゃない別の男にその眼光が向けられるだろうな。
「そういえば、お前昨日カレルと2人で何してたんだ? ……カレルの部屋で。」
「何だとッ!?」
ソーマの怒声が、エントランス中に響き渡った。
この後、カレルがどうなったのか。
あるいはナギサがどうなったのか。
それは皆さんのご想像にお任せしよう。
ん?
余計な火種は投げ込まない主義じゃなかったのかって?
面白くなるなら、それもアリだと思ってさ。
…それに、俺に被害はないしな。
おっと。
防衛班らしからぬことを言っちまった。
今のは聞かなかったことにしといてくれよ。
さーて。
巡回、巡回っと。
アナグラは今日も平和だ。
〜Fin.〜
あとがき
突然思い付いた痴話喧嘩話。…なんか、タツミさんが腹黒くなってしまった…。
そしてブレンダンとカレルがとばっちり…。
2011/01/11(微修正:2011/11/21)