雨の唄

短編 GOD EATER / GOD EATER BURST

ルーキー

彼女は、優秀だった。

“新型”として、この極東支部に入った彼女…ナギサ。

剣も銃も器用に使いこなし、実戦における判断力や戦闘能力には目を見張るものがあった。


まだ極東支部に入って間もないが、すでに彼女を“ルーキー”呼ばわりする人間はいなくなっていた。

…一人を除いては。


「おい、新人。…早くしろ。」

「はいはい、わかりました…っと。」


イライラするソーマを背に、ナギサはせっせと回収作業に精を出していた。

現在《鉄塔の森》で、グボロ・グボロ討伐任務の真っ最中。

もとより彼女の目的は、グボロ・グボロなどではなく、この《鉄塔の森》で手に入る素材だったのだ。


「ソーマも拾っとけば?」

そのまま自分の報酬になるんだよ?…と、彼女は笑顔を向ける。

それは、この死と隣り合わせの戦場には、実に似つかわしくない様だった。


(こいつには緊張感が無い。)


ソーマは苛立っていた。

ただでさえ“お守り”は面倒なのに、その上この新人は飄々としていて、礼儀を知らない。

そして何より、“恐れ”を知らない。


「早くしろ。」

「…短気だね。先に行っててもいいよ?」

「死なれちゃ困るんだよ。…早くしろ。」

「3回目だよ…。」


仕方ないと言わんばかりの態度で、彼女はやっと立ち上がった。


「さて。行こうか。」

「………。」


神機を構えて遠くを見据える。

視線の先には、ウロウロと徘徊しているグボロ・グボロの姿があった。

まだこちらには気付いていない。


「…奇襲を仕掛けようか。少し近付いたところで撃つから、向こうが気が付いたら、斬って。」

OPがなくなりしだい、私も前衛に移る…と、ナギサは一人前気取りでソーマに指示を出す。


「…チッ。」

舌打ちを返事代わりに、ソーマが動き出す。

ナギサも距離を詰め、雷属性の弾丸を、対象目がけて何発も撃ち込んだ。


いきなりの猛攻にグボロ・グボロはひるみ、そこへソーマが一閃を食らわせる。

さすがにその程度では倒れない。

だが多少なりと痛手を負ったはずだ。

ヤツはグオオオォォという奇声を発し、水の中に逃げ込んだ。


「チッ。」

「逃げちゃったか…。どこに行ったか、わかる?」

「知るか。」

「そっか…。じゃあ索敵しよう。私あっち。ソーマあっちね。」

そう適当な指示を出し、じゃあまた後で…と、彼女は駆けて行った。


一人その場に残されるソーマ。


新人の彼女に、一人になられては困る。

だから今まで嫌々ながらも一緒に行動していたというのに。


ソーマはため息を吐いた。


どうせドーナツ型のこの場所。

反対側へ向かっても、そのうち会うことになるだろう。

彼女の向かった方とは反対の方へ、ソーマも駆け出した。




◆ ◆ ◆




(おかしい…。)


息を切らして辺りを見回す。

ここは、彼女が索敵しようと言って、別れた場所。


そう。

一周、回ってきたのだ。

なのに、会ってない。

彼女にも、グボロ・グボロにも。


(まさか、あいつも……。)


──喰われた…?

──俺の、せいで…?


あの時、別れなければ。

あの時、逃がさなければ。

あの時、仕留めていれば。

俺のせいで、また──


「…ソーマ、よけて!!」


後ろからの危機迫った声に反応し、ハッと我に返る。

反射的にその場から飛び退いた。

振り返ると、頭に血が上ったグボロ・グボロが、こちらを見据え、雄叫びを上げている。

その後ろに、神機を構えたナギサが見えた。

彼女はグボロ・グボロに斬りかかり、その勢いのまま、こちらまでやってきた。


「だ、大丈夫?寝てたの?」


新人が自分の顔を心配そうに覗き込む。

正直、安堵した。


「クソッタレ…。」

「え?」

「よけろ。」


突っ込んできたグボロ・グボロをかわし、距離を取って、お互い体勢を立て直す。


「俺が前衛。お前は後衛だ。いいな。」

「…わかった。」


ソーマはナギサが頷いたのを確認し、一気にグボロ・グボロとの距離を詰める。

ナギサは神機を銃形態に変え、アラガミバレットをソーマに受け渡した。

Lv3のリンクバースト状態。

攻撃力も移動速度も大幅に上がる。


──ここで終わらせる。


という、2人の意思が合致した。


ソーマはグボロ・グボロの攻撃をかわし、斬りかかる。

ヤツはひるんだ。

その隙を逃すものかと言わんばかりに、ナギサが弾丸を叩き込む。

そして…。


「終わりだ!!」


溜めに溜めたバスターブレードを、ヤツの脳天に直撃させた。




◆ ◆ ◆




「…どこに行ってた。」

「え? ああ…。」


グボロ・グボロの捕喰も終え、あとは帰投を待つばかりという時に、ソーマが尋ねた。

彼女は、回収した素材をせっせと確認していた手を止め、ソーマの方を見る。


「ソーマと別れた後、結構すぐにグボロ・グボロと再会して。
 応戦しているうちに、元来た道を戻って、そのまま一周して、気付いたらソーマの後姿が目の前に…って感じかな。」


ケロンと、こともなげにそう言うナギサに、ソーマはため息を吐いた。


「もしかして、心配してくれたの?」

「…責任を取るのは俺だからな。」

「そっか。ありがとう。」


ナギサが素直にお礼を言い、ソーマは怪訝な顔をする。

これでは本当に自分が彼女のことを心配していたみたいだ。

…まあ実際心配はしていたのだが。


気にいらねぇ…と言わんばかりに、ソーマは舌打ちした。


(こいつの相手をするのは疲れる…。)


──でも。


周りが彼女を認めつつあるのには納得がいった。

新人でこれだけ動けるやつはそういない。

もしかしたら先輩陣を上回る実力を持っているかもしれない。

彼女に足りないのは、経験だけ。


そう。

あらゆる経験が、彼女には足りてない。


「…おい。」

「なに?」

「単独行動は控えろ。」


ナギサは目を丸くする。

最も単独行動の多いソーマに、そんなことを言われるとは、彼女も思っていなかっただろう。


「お前はまだまだ経験の浅いルーキーだ。」

新人は新人らしく、先輩の援護でもしてろ…と、彼は言った。


ソーマが言いたかったのは、端的にまとめると“無茶をするな”ということだ。


彼女は優秀で、実力もある。

これからさらに力を付けていくだろう。

きっとあっという間に。

そうなれば、より強いアラガミと対峙することになる。

当然、死ぬリスクは高くなる。

だから、ゴッドイーターという職業は、強くて優秀な人間ほど、早死にすると言われていた。


──こいつも、きっと……。


「私は、死なないよ。」


まるでソーマの心を読んだかのような言葉だった。

ソーマを真っ直ぐ見詰め、彼女はそう言った。


強い輝きを宿す瞳。


なんとなく、なぜだかはわからないが、信じられる気がした。


「…新人が生意気言うな。」

「はいはい、わかりました。」


彼女はそう言い、肩をすくめた。

…任務の最初にも、同じようなセリフを聞いた気がする。


なげやり…というか、テキトーなその態度には苛立たされるが…。


最初ほど、こいつと一緒にいるのが嫌じゃなくなった。

と、ソーマは思った。


きっとこれから先、何度も共に闘うことになるのだろう。


──いつか、こいつに背中を預ける日が、来るかもしれないな。

ソーマはそんなことを考え、ふっと笑った。


生意気なルーキーのお守りも、たまには悪くない。
〜Fin.〜

あとがき

ソーマと2人の任務のお話でした。
時期は、アリサが加入する手前あたり。
主人公はまだまだ新人だけど、結構ゴッドイーター稼業にも慣れてきた…といったところ。
2010/11/26
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